fc2ブログ

1カラットの奇跡 第十話 ペンダントよ、青く光れ!(3)

 和也は、怒りを抑えて夜の首都高を、用賀に向けて飛ばしていた。悪戯にも程がある。それは限度を超えている。シャレにならない。兎に角、香織に文句を言わなければ、彼の気は静まらなかった。
 コンビニの前に車を止めて、和也は走ってマンションの三階へ上がった。そして、香織の部屋の明かりは、ついていた。
和也は呼鈴を鳴らした。だが、反応はなかった。彼は大きな声で扉を叩いている。彼はドアノブを回した。そして、扉が開いた。鍵はかかっていなかった。
和也は中に入って香織の姿を探していた。しかし、ダイニングキッチンに彼女はいなかった。そして、風呂場からシャワーの音が流れていた。
 いくら何でも、風呂場に飛び込むのは不味い。少し待つかと、和也は気を静めてテーブルに腰を下ろした。ふと、彼はテーブルの上を見ていた。そこには、赤い皮の表紙の日記が置いてあった。
和也は悪いと思ったが、何気なく中を読んだ。そして、彼は驚愕した。
 そこには、裕子との懐かしい日々の思い出が、全て書かれている。そのときの彼女の気持ちも綴られていた。それは、裕子の日記だった。
やはり、香織は裕子なのかと和也は思った。しかし、その日記は、ラビットワールドの件で、止まっていた。裕子の無念の気持ちが延々と書き綴られている。彼は胸の痛みと全身の震えが止まらなかった。そして、涙が溢れていた。
 和也は気配を感じて顔を上げた。そこには、裕子がピンクのバスタオルを胸から巻いて立っていた。いや、香織だった。
香織は薄ら笑いを浮かべている。
「そろそろ、来る頃だろうと思って、鍵を開けておいたわ」
「お前は、裕子なのか」
「やっと、分かったようね。でも、残念だわ。私は浅野香織。須藤は母の旧姓。そして、裕子は姉よ」
香織は目を大きく見開いている。
「そうか、妹か。それで、目元が良く似ているのか。そして、この日記を読んで再現していたのだな。それより、これは何だ。酷過ぎるだろう」
和也は半分安堵した。しかし、怒って黒いショーツを香織に突き出していた。
「酷い? 貴方の方が、もっと酷いでしょう。日記を御覧なさい。貴方は、姉を裏切った。そして、私から大切な姉を奪ったのよ。姉は、もうこの世には戻らないでしょう。全て貴方の責任よ」
香織は閻魔大王のような形相で逆切れをしていた。

 和也には台詞が浮かばなかった。そして、胸が苦しく涙が溢れて、唯下を向いてうな垂れるのが、精一杯だった。
その姿を見ていた香織は、和也の後ろから近づいた。そして、そっと優しく彼を抱きしめた。
「でも、もういいのよ。こうやって、やっと、私達の元へ帰って来てくれたわ。その様子だと、優希とは終わったのでしょう。これからは、二人で暮らしましょう。私が姉の代わりに、その続きをするの。最初はね。貴方達二人の仲を壊したかった。復讐よ。でもね。姉の日記を読んで、それを貴方と再現しているうちに、私も貴方を好きになってしまったの。貴方は、もう誰にも渡さないわ」
「もう、勘弁してくれ。俺は戻ってきたのではない。文句を言いにきただけだ。それに、優希とは、まだ終わった訳ではない。必ず誤解は解くつもりだ」
「もう、無理よ。こういった誤解はね、女には解けないものよ。それより、私を抱いて、早く忘れなさい。そうすれば、誤解ではなく本当のことになるから、貴方も諦められるでしょう。姉も日記の中で、貴方に早く抱かれる日を夢見ていたわ。それを実現するのよ。今、ここで」
 香織は和也から離れて、そっとバスタオルを床に落とした。そして、両手を広げて、女王蜂が微笑むように彼を誘っていた。
蜜のように甘い香りが漂うその美しい裸体は、和也の心をドッキとさせた。しかし、原子炉のような熱い怒りが、彼の心の底から込み上げた。
「ふざけるな! 裕子はこんなことはしない。俺達二人の綺麗な思い出を汚すな。お前は裕子ではない。香織だ。そして、俺はお前を愛してはいない。裕子を見ていただけだ。目を覚ませ。お前はラブストーリーに憧れているだけだ。自分をもっと大事にしろ!」
 和也は香織の頬を叩いた。
香織は床に泣き崩れていた。
和也は、そっと優しくバスタオルを香織の体に掛けた。そして、静かにその場を立ち去った。
夜空からは何時の間にか雨が降り出していた。その光景は、赤い星が泣いているようだった。

ネット小説ランキングに投票 恋愛ファンタジー小説サーチ オンライン小説検索・小説の匣へ

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

Keyword : 小説恋愛ダイヤモンド

1カラットの奇跡 第十話 ペンダントよ、青く光れ!(2)

 二人はレストランを出た。雪は止んでいて路面はまだ濡れている。しかし、積もるほどではなかった。
和也は急いで首都高に乗って羽田に向っている。優希が乗り遅れるようなことがあれば、彼は格好がつかない。何故なら、彼女は、その翌朝から店に出なければならなかった。
 車は急いで駐車場に入った。そのとき、車の横から不意に赤い車が飛び出した。そして、和也は慌ててブレーキを力強く踏んだ。間一髪セーフだった。
二人の体は、フロントガラス近くまで大きくのめったが、何とか踏ん張った。しかし、助手席のシートの下から、黒く丸まった布が優希の足元に顔を出していた。
 車がスペースに入って、優希が降りようと下を向いたとき、彼女はその黒い布切れを見つけた。そして、不思議そうに取り上げて、その布を広げた。それはショーツだった。
「何で、こんなものが、ここにあるの!」
優希はそれを和也の前に突き出して怒っている。
その布を見た和也は、目を丸くした。
「いや、俺は知らん。優希のか?」
「ふざけないで! 私のとは、メーカが違う。それに、この地中海の夜のように甘い香りは、D&Zのライトブルーの小瓶の香水ね。分かった、香織だね。私、香織と大阪のホテルで同室だったから、分かるの。それに、このショーツの形も見覚えがある!」
優希は鬼刑事のように和也を厳しく追及している。
「そうか。ほら、大阪の帰り、駅まで乗せたから、そのときに忘れたのだろう」
和也は大浜のときだなと思ったが、必死にとぼけるしかなかった。
「とぼけないで! どこに、唯送ってもらっただけで、ショーツを車に忘れていく馬鹿女がいるの!」
「ヒータを入れ過ぎていたから、きっと暑かったのだろう」
和也は意味のないことを口走るしかなかった。
「往生際が悪い! 私のこのシートの上で、二人で何をやったの。ショーツを脱ぐようなことをやったのね。そうでないと、こんなものを忘れるはずがないよ。動かぬ証拠だね。あー、汚らわしい!」
優希の怒りはエベレストの頂上に達している。
「待て、俺を信じろ! 天地神明に誓って、彼女とは関係がない。この目を見てくれ」
和也は真剣な眼差しで優希を見つめた。
「何を信じろというの! こんな汚いものを見て。貴方って最低だね。何よ、こんなもの!」
優希はショーツを力強く和也の顔に叩きつけた。
「わっ、待て。焦るな。俺の話を聞け」
「もう、いいの。それに、これもいらないね!」
優希は指輪の箱を和也の胸に放り投げた。そして、彼女は土砂降りの涙を流して人込みをすり抜けてターミナルに向った。
和也も必死に優希の後を追いかけている。
しかし、優希はパニック状態だった。和也の話を聞く余地などはなかった。彼女は最後に平手打ちを彼にした。そして、逃げるように出発口Gへと姿を消した。
大衆の注目を一身に浴びて、和也は呆然とターミナルの床に立っていた。そして、唯天井の光を見つめていた。

ネット小説ランキングに投票 恋愛ファンタジー小説サーチ オンライン小説検索・小説の匣へ

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

Keyword : 小説恋愛ダイヤモンド

1カラットの奇跡 第十話 ペンダントよ、青く光れ!(1)

 師走の真夜中の冷たく澄んでいる空には、多くの星達が七色の光で輝いて赤い星を守っていた。
和也は自宅のマンションのベッドの中で夢を見ていた。彼は馬に乗って森の中を愉快に走り回っている。彼は暫く進んだ。そして、霧の奥に人影が立っていた。
その人影は和也の方に振り向いた。それは裕子だった。彼女は、薄っすらと笑みを浮かべて走り去った。
和也は慌てて馬に強くムチを入れた。そして、裕子を追いかけている。しかし、彼が追いかけても、追いかけても、二人の距離は縮まらなかった。
 和也は気がついた。今度は青いオフロードバイクのタンデムシートに乗っていた。そのバイクを運転しているのは、赤い革ジャンを羽織った裕子だった。彼女の背中に和也はつかまっている。
そのバイクはカーブで大きくジャンプをした。そして、深い谷底へと落下した。
二人は抱き合って顔を見つめ合っていた。そして、何時までも落下している。
裕子は優しく微笑んでいた。そして、その顔は急に香織に変わっていた。

 和也は布団を跳ね飛ばしてベッドの上で起き上がった。寝汗が彼の顔を流れて心臓は激しく鼓動を打っていた。そして、彼の全身には恐怖が溢れていた。
やはり、三百七十万は異様で和也は怖かった。そして、香織とのデートが裕子との思い出をリロードするように流れていることも、彼は奇妙に感じていた。
そして、香織の死というイメージが、それまでの流れから、和也の脳裏には容易に浮かんでいた。彼は、それは避けたかった。あのような辛い思いをするのは、二度としたくなかった。
和也は、もう香織に会うのは止めようと決心を固めた。それが、彼女にも良いことで、リロードも止まると思った。それに、彼女に愛情を抱いている訳でないことも、彼は心に確認した。何故なら、彼は裕子の面影を懐かしんでいただけだった。
 そして、裕子を追いかけることは、和也が現実を拒否している証拠だった。不運と幸運は紙一重。心の持ち方で決まる。それを不運と感じて何時までも嘆いたままでは、永遠に幸運は訪れない。負けは負け。不運は不運と受け入れて、一旦終わらせることが、誰にでも必要なことだった。そうすれば、前を向いて、また歩き出せる。やがて、幸運にも巡り会える。それ故に、過去を向いたままでは、決して次の物語は始まらなかった。彼は、そう思っていた。
 窓の外の夜空に、寂しそうに灯っている赤い星を、和也は眺めている。そして、それまでの優希の可愛らしい仕草を思い出していた。
和也は前に進む道も開けていることに気がついた。そして、何よりも、優希を幸せにすることが、彼の一番の使命だと思った。女を二人も不幸にする訳にはいかない。彼女を横浜に呼んで一緒に暮らそう。そうすれば、過去も断ち切って前に進めると、彼は澄み切った表情で考えていた。

 クリスマスの前週の水曜日、和也は休暇を取って優希を東京に呼んだ。本当は、その翌週が一番のタイミングだった。しかし、クリスマスの週は稼ぎ時で、彼女は休みを取ることが出来なかった。そこで、一週早いクリスマスとなった。
 華やかなデコレーションで飾られている銀座の街を、二人は緩やかな笑顔で腕を組んでいた。そして、人の流れに乗って歩いている。
優希は、D&Zの黒いコートにロングブーツを身に着けて、ビルを見上げて楽しんでいる。
そして、和也はアレマーニのスーツで決めて強い決意を心に抱いていた。
空には薄っすらと白いものが舞っている。一週早いホワイトクリスマスは、二人の未来を祝福するようだった。

 夕方になって、二人はウィンドウショッピングを終えた。そして、寒さに震えて予約していたフレンチのレストランに入った。
その店内は、赤と黒の配色が印象的で、シックな雰囲気の中にオリエンタルな風情が交じり合っていた。その独特でオシャレな演出は、カップル客達を、ロマンチックな世界へと導いていた。
 赤ワインで乾杯して、二人のディナーが始まった。繊細な銀が輝いている食器の光沢は、二人の空間をシルクのように包み込んでいた。柔らかくふんわりと口一杯に広がるコースの料理達は、どれもが絶妙な味わいで、二人の心を甘く溶かしている。そして、二人はにこやかに微笑み合って、その時間が長く続くようにと願った。
 静かな曲と共に時は流れた。テーブルの上には、デザートのムースとコーヒが並んでいる。
和也は赤いリボンで飾られた小箱を、懐から取り出した。そして、何気なく、優希の前に置いた。
「わあ、嬉しい。クリスマスプレゼントだね」
優希は瞳を躍らせて優しく微笑んだ。
「いや、違う。もっと、凄い物だ。早く開けてみろ」
 優希は丁寧に包みを開けた。そして、彼女の前には濃紺の指輪の箱が姿を現した。彼女は息を止めて蓋をゆっくり開けた。その中には、1カラットのダイヤが眩いばかりに輝いていた。彼女は、顔一面の笑顔で大きく口を開いていた。そして、その指輪を嬉しそうに見つめて、指にはめようとした。
「あっ、待て。今は、ダメだ。正月、佐世保へ行ったときだ。もし、俺と横浜で暮らす気があるのなら、指にはめて見せてくれ。その気がないのなら、箱ごと玄関の前に置いておけ。それを持って静かに帰る」
和也はクールに決めた。
「分かったわ。お楽しみは、お正月だね」
優希は満身の笑みを、まだ、顔一杯に広げていた。

ネット小説ランキングに投票 恋愛ファンタジー小説サーチ オンライン小説検索・小説の匣へ

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

Keyword : 小説恋愛ダイヤモンド

1カラットの奇跡 第九話 小悪魔のリローデッド(5)

 十二月に入って街は慌しく寒さは懐を刺していた。その月の最初の日曜の朝、和也は川崎街道を車で八王子へと向っていた。
助手席の香織は、また小出しに道順を指示している。まだ、目的地は告げていない。
 車は大丸の交差点で右に折れて是政橋を渡った。そして、その前には、大きな観戦スタンドが現われた。府中の東京競馬場だった。
和也はまさか競馬をやるのかと思っていた。しかし、東京開催は前月で終了して中山開催に移っていた。こんなに朝早くから、そこで何をしようと考えているのだと彼は思っていた。そして、ペンダントが青く光った。彼は少し気になったが、香織が正門に早く回るように急かしたので、それ以上はかまわないことにした。
 車は正門前の駐車場に入った。そして、二人は連絡橋に上がって、そこにあった行列の後ろに並んだ。それはS席の列だった。
競馬場では開催がない日は場外売りをしており、S席は千円で座れる。もっとも見るのは、ターフビジョンの映像だが、特等席に座れることに変わりはなかった。
「おい、競馬をやるのか」
和也は香織の肩を軽く叩いた。
「そうよ」
「俺は、止めているから、見るだけにするぞ」
「ダメよ。約束でしょう。私と勝負よ」
「いや、ダメだ。競馬は、不味いのだ」
和也は大きく首を横に振っている。
「それじゃ、不戦勝で、私の勝ちね。貴方は、私のもの。優希とは別れてちょうだい」
「おい、待て。分かった。勝負すれば良いのだろう。しかし、お前も馬鹿だなあ。競馬で、この俺に勝負をするとは、百万年早いぞ。素人のお前が、玄人のこの俺に勝てる訳がない。もう勝負は明白だ」
 和也は勝負を受けることにした。しかし、何故、競馬での勝負なのか香織の狙いが分からなかった。けれども、その勝負なら問題なく彼女に簡単に勝てると高をくくっていた。
「あら、そうかしら。私にはビギナーズラックという神様がついているのよ。足元をすくわれないようにね」
「そういうことなら、中山にすれば良かったなあ。こっちは、場外だから馬は生で見られないぞ」
「いいのよ。馬を見にきたのではないから。S席に座りたかっただけだから」
香織は優しく微笑んでいる。
和也は不思議そうに、
「変なやつだな。普通は馬を見るものだ」
「それより、財布を渡して、早く」
香織は、いきなり右手を出した。
「はあ、何でだ?」
和也は目を丸くしている。
「スタートは同じ所持金から、三千円ね。メインが終わった時に、所持金が多いほうが勝ちよ。ずるしないように、財布は私が預かるわ。三千円取ったら、こっちにちょうだい」
 和也は、スタート金を取り出して財布を香織に渡した。
香織は嬉しそうに、和也の財布から、三千円を抜いて舌を出した。
「おい、何でお前の三千円は、俺の財布から取るのだ」
「当たり前でしょう。いい女のデートはね。男が全てお金を見るものよ」
香織は小悪魔な微笑で胸をつんと出した。
 叶わないと和也は思って、溜息をついて諦めた。

 二人は中に入った。そして、座った席は偶然にも、裕子とダービーを見たときと同じ席だった。
和也は、何か嫌な予感を感じていた。そして、また香織が裕子に見えていた。おかげで、彼のカンピュータはショートして、午前中のレースは全部外した。いや、何時ものことだった。そして、所持金は二千円となっている。
香織は、ワイドで小銭を稼いで所持金は四千円となっていた。
 昼になって、香織は手作り弁当を広げた。
そして、和也のカンピュータはさらにショートした。机には、あのときと全く同じメニューが整然と並んでいる。味も全て同じで、全身の震えが止まらなかった。香織とデートをしていると、何か裕子との思い出をリロードするようで怖かった。
 午後になっても和也の調子は上がらない。それも何時ものことだった。中山のメインが終わった段階で、彼の所持金は千円となっている。
香織も午後は調子が悪く、所持金は二千円に減っていた。しかし、勝負は決した。
「私の勝ちよ」
香織は小悪魔が喜ぶように胸を張っていた。
「いや、まだだ。阪神でGⅠがある。今日のメインはそっちだ」
和也はクールに間違いを指摘した。
「でも、中山のメインは終わったわ」
「お前は、メインとしか言っていない。普通、メインはGⅠだ」
「私は中山のメインという意味で言ったのよ。私がルールだからね。私の勝ちなの。でも、特別ルールで良いなら、GⅠも勝負してあげる」
香織は女王様気取りで言っている。
「何だ。その特別ルールとは」
「三連複の一点勝負よ。二頭は私が選ぶわ。貴方が選べるのは一頭だけ。その三頭が仲良くゴールすれば貴方の勝ち、それ以外は負けだわ」
「それは、かなり俺が不利だぞ。馬単一点の有り金勝負でどうだ」
「ダメよ。どうしても、三連複なの。でなければ、ここでおしまい。私の勝ちよ」
香織はダダをこねており、和也は叶いそうにもないと思った。
「分かった。その二頭は、何番だ」
「可愛いピンクの帽子の二頭よ。十六と十七。名前も上がおそろいで可愛いの」
「ふざけるな! そんな馬が来るか。オッズを見ろ。万馬券だ」
和也は顔を真っ赤にして、丸めた競馬新聞を机に叩きつけて、怒鳴り出した。
「あら、分からないわよ。やってみないと。早く選びなさい。もう締め切りよ」
香織は冷たく突き放した。
「うっ、くそったれ。ええい。隣の十五だ。その二頭では、どれでも同じだ。数字でも並べるしか、手がない。最後の千円全部だ」
和也はヤケになって、急いで窓口へ買いに出た。

 オーバーシードの洋芝は、冬でも緑に輝いている。春になればそこは桜のビクトリーロード。そして、その道へ向う幼い少女達の試練の道、阪神ジュベナイルF。
ファンファーレが鳴り終わった。そして、少女達は順調にゲートに納まっていた。
ゲートが開いて、二頭が出遅れた。ピンクの帽子十七番は馬群の先頭を切って軽快に飛ばしている。十五は馬群の中段の好位の位置だった。十六は馬群の後方を、のんきに走っている。
十六の位置を確認した和也は、溜息をついて天を仰いでいた。
 最後の直線で、十七と十五が並んで先頭に立っている。そして、十六は、まだ馬群の後方だった。
万事休すかと和也が思ったとき、十六は嵐のような脚を使った。そして、大外から一気に駆け抜けた。鮮やかに馬群をまとめて差し切って一着だった。さらに、十七と十五もそれに続いた。まさかの三頭仲良しゴールだった。それで、彼の懐に三百七十万が落ちた。彼は我を忘れて両手を上げていた。
香織も勝負には負けたが、奇跡のどんでん返しに感動して、和也に抱きついている。そう、あのダービーのときの裕子のように。
和也は、また香織に裕子を重ねていた。彼は暴走して裕子を強く抱きしめている。そして、唇を強く吸い出した。
裕子も嬉しそうに反応をしている。
和也は涙が溢れて止まらなかった。裕子の思い出が、ビデオをリロードするように蘇って天空を彷徨っていた。そして、二人は抱擁を続けていた。
冬の夕暮れが辺りを静かに包んでいる。そして、空の赤い星は、和也を睨みつけるように冷たく光っていた。

18金ホワイトゴールド0.2ctダイヤモンドスウィングトリロジーペンダント

18金ホワイトゴールド0.2ctダイヤモンドスウィングトリロジーペンダント



ネット小説ランキングに投票 恋愛ファンタジー小説サーチ オンライン小説検索・小説の匣へ

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

Keyword : 小説恋愛ダイヤモンド

1カラットの奇跡 第九話 小悪魔のリローデッド(4)

 その月末の土曜、和也は香織を助手席に乗せて鎌倉街道を走っていた。しかし、彼は行き先を知らなかった。
香織は小出しに道順を和也に指示している。車は海に出た。そして、彼女は百三十四号線を左に曲がるように言った。そこから暫く進んで、葉山の大浜で車は止まった。そこは、裕子と最初に訪れた場所だった。
偶然の一致なのか、それとも、女の思考回路は皆一緒で、海辺のデートに憧れるものなのかと、和也は考えた。そして、また懐かしく切ない胸の鼓動を感じていた。
 二人はゆっくりと浜辺に座った。そして、冬の海は寂しく寒く、人は誰も居なかった。こんな所でちゃんとしたデートになるものなのかと和也は考えていた。
香織は大きな鞄を抱えている。そして、中から数個のプラスチック容器を取り出した。それは、弁当だった。彼女が蓋を外すと、玉子焼きにウインナー。ロールキャベツに唐揚。ハンバーグにピーマンの肉詰め。三色のフリカケで飾られたおにぎりにポテトサラダ。そして、デザートのプリンが顔を出した。彼女は意味深な小悪魔の笑みを浮かべて、和也の顔を覗いていた。
 和也は固まって青ざめた。そのメニューは裕子だった。そう、あの時と全く同じ料理が、ビーチシートの上に整然と並んでいる。彼はまさかと思って、玉子焼きに手を伸ばした。
和也は美味いと思った。先週の優希スペシャルに比べたら、天と地の差だった。料理はこうでなければならないと思った。いや、そんなことより、その味はあの時と全く一緒だった。
念の為、和也は全ての料理を平らげた。やはり、どれも全く同じ味だった。こいつは、裕子なのかと彼は思った。いや、そんなはずはない。香織には足があった。彼は、それを確かめるように、彼女の足を無意識のうちに触っていた。
「きゃあ、いきなり何をするの。もう、いやらしいわね」
香織は驚いて怒っていた。
「いや、済まん」
和也は頭を下げていた。
「あっ、やっぱり、私に惚れているのでしょう。白状して楽になりなさい。告白してくれたら、好きなだけ触ってもいいわよ」
「うむ。そうだな。ちょっと、食後の散歩に歩こうか」
 和也は、その押し問答を避けたかった。そして、立ち上がって歩き出した。
香織も和也の後を追いかけて、一緒に波打ち際を散歩した。暫くすると、彼女は波の満ち引きに合わせて踊り出している。
その姿を見ていた和也は、裕子のシルエットを香織に重ねている。もう彼の熱い胸の鼓動は止まらなかった。裕子を横向きに、彼は両手で抱き上げた。
裕子も和也の首につかまって笑っている。二人は唇を吸い合った。そして、彼はそのままくるくると、その場で回り出した。
 和也は裕子を下して彼女の手を取って、右に左に踊りまわしていた。彼は調子に乗って彼女の両手をつかんだまま、その場で回転を始めた。
裕子の体は遠心力で華麗に宙に浮いている。そして、二人は笑顔で見つめ合ったまま、回っていた。
 和也は裕子の顔を楽しんでいた。しかし、その顔は急に香織に戻った。当たり前だった。彼女は香織で、裕子のはずがない。そう思うと彼の手から、するっと力が抜けた。
香織の体は綺麗な弧を描いて、冬の冷たい海の上へと飛んだ。そして、彼女の全身は海の中へと一旦消えた。彼女はパニックだった。水面に浮かび上がった。しかし、彼女は溺れている。手と足を一生懸命にバタつかせていた。
「おい、あせるな。浅いぞ、立ち上がれ!」
和也はその場で冷静に大声を出していた。
 その声に従って、香織は立ち上がった。彼女の尻から上は海面から出ている。彼女は急いで浜に自力で上がった。和也の顔をグーで殴りたかった。しかし、冷たい海水は、彼女の体力を奪っていた。それ故に、彼女は、その場に倒れ込んだ。
和也は急いで走り寄った。そして、香織の体を抱えていた。
「いや、悪い。大丈夫か。本当に済まん」
 香織は震えている。怒りの言葉を百万語くらい並べたかった。だが、その口は脳の指令を受け付けず、パクパク開くだけだった。

 和也は香織を抱えて車まで戻った。彼は彼女を、倒した助手席に乗せている。そして、エンジンを掛けてヒータを全開にした。トランクルームにある仮眠用の毛布を取り出して、それを運転席にほうり投げた。
「濡れたものを全部脱いで、これに包まれ。風邪を引くからな」
「えっ、ここで、なの?」
香織は少し不安そうだった。
「何を言っている。浜名湖でも同じようなことをやっただろう。ここも、俺を除けば人は居ない」
和也はそう言って、百メートル離れた自動販売機まで暖かい缶コーヒを買う為に、車を離れて歩き出した。
 香織は死にそうに寒かった。それ故に、仕方なく、着ている物を全部脱いで足元に置いた。そして、運転席の毛布を取り出して、バスタオルのように胸から巻いて整えた。脱いだ下着を和也に見せるのは恥ずかしかった。その為に、念入りにシートの下の奥の方に黒い下着を追いやっていた。
 和也は車に戻った。彼はジャケットを脱いで、優しく香織の肩に掛けた。そして、暖かい缶コーヒを彼女に渡した。
ヒータは効きだしていた。そして、香織の体は生き返った。しかし、話すことは何もなかった。
和也は気まずい思いをして静かに車を走らせた。

 車は香織のマンションの前に着いた。そして、まだ濡れている服を、彼女は無言で足元のバッグに押し込んでいた。
「今日は本当に済まん。この償いは、もう一度、ちゃんとデートをするから許してくれ」
和也は頭を下げている。
「もう、いいわ。貴方って、本当に最低な人だと分かったから」
香織は強く怒って、そっぽを向いていた。
「いや、それでは、俺の気持ちが許さない。もう一度、チャンスをくれ。後生だ」
和也は誠心誠意を込めて謝っていた。
「分かったわ。そこまで言うのなら。今度は、ちょっとした勝負をしてもらうわ」
香織は不気味に小悪魔な笑みを浮かべている。
和也は不思議そうな顔をして、
「何だ。勝負というのは?」
「うっふ。ナイショよ。来月の最初の日曜の朝に、迎えに来てちょうだい」
香織は悪戯を楽しむような目をしていた。
「ヨッシャー、分かった」
和也は調子良く返事をした。
 香織は人通りがないことを確認して車を降りた。そして、荷物を持って走ってマンションへと消えた。
和也は香織の姿を見送って車を走らせた。
そして、二人がいなくなったその場所には、冬の冷たい木枯らしが舞っていた。

ネット小説ランキングに投票 恋愛ファンタジー小説サーチ オンライン小説検索・小説の匣へ

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

Keyword : 小説恋愛ダイヤモンド

プロフィール

夢野広志(むのひろし)

Author:夢野広志(むのひろし)
小説の夢見へようこそ♪
オリジナルの恋愛小説を書いています。
不思議な宝石の物語を掲載中です。

目次
リンク
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

RSSリンクの表示
ランキング