1カラットの奇跡 目次
1カラットの奇跡 創作後記
最後まで長いお話につき合って頂き、ありがとうございます。
初めて書いた小説なので稚拙な文章ですが、終わりまで読んでいただけて感謝しています。
ちょこっとでも楽しんで頂けたならうれしいですね。
この作品は自己のリアルな物語をベースに、ファンタジーとコメディ要素を織り交ぜて物語を進めました。
リアル部分は、若い頃の思い出がよみがえって、書いていてなんか胸が熱くなりましたね。
第一話の和也がダイヤモンドを買うシーンなんかは七割くらいリアルだから、今から思えばほとんど笑いです。
何であんな高いダイヤモンドを買ったのだろうかなんてね。
でも、遠距離恋愛までに発展したので、良い思い出かな。
ファンタジー部分はもちろん創作で、ダイヤモンドに何か不思議な力を与えたかった。
はっきりした力でなく、なんだか良く分からない力だけれど、結果的に幸運が迷い込んでくる。
そんなダイヤモンドなら夢があるよね。
次はルビーに不思議な力を与えたお話です。
準備が整い次第、連載を始めます。
よかったら、また読んでくださいね。
それでは、ごきげんよう!
初めて書いた小説なので稚拙な文章ですが、終わりまで読んでいただけて感謝しています。
ちょこっとでも楽しんで頂けたならうれしいですね。
この作品は自己のリアルな物語をベースに、ファンタジーとコメディ要素を織り交ぜて物語を進めました。
リアル部分は、若い頃の思い出がよみがえって、書いていてなんか胸が熱くなりましたね。
第一話の和也がダイヤモンドを買うシーンなんかは七割くらいリアルだから、今から思えばほとんど笑いです。
何であんな高いダイヤモンドを買ったのだろうかなんてね。
でも、遠距離恋愛までに発展したので、良い思い出かな。
ファンタジー部分はもちろん創作で、ダイヤモンドに何か不思議な力を与えたかった。
はっきりした力でなく、なんだか良く分からない力だけれど、結果的に幸運が迷い込んでくる。
そんなダイヤモンドなら夢があるよね。
次はルビーに不思議な力を与えたお話です。
準備が整い次第、連載を始めます。
よかったら、また読んでくださいね。
それでは、ごきげんよう!
1カラットの奇跡 第十話 ペンダントよ、青く光れ!(6)
和也は、まだ床に両膝をついていた。彼は何かを思い出したように、胸からペンダントを取り出した。そして、両手で強くつかんで、顔の前で念じた。
しかし、ペンダトに反応は何もなかった。
和也は再び心の中で強く、
「ペンダントよ、青く光れ!」と叫んだ。
それでも、何も反応はなかった。
和也は、呆然と光らないペンダトを見つめていた。何故、一番大事なときに光らない。もう、パワーが無くなったのか。彼は、そう思った。
そして、和也は、それまで随分と運の無駄使いをしていたと心の中で振り返っていた。十年間、ギャンブルで一喜一憂を楽しんで浪費をした。だから、肝心なときに光らない。もう、ギャンブルは止めようと、彼は心に誓った。
和也は、もう必要のなくなったペンダントを、ゆっくりと優希の首から掛けた。そして、最後の別れをするように、彼女の頭をそっと撫でていた。
「俺に、最後の試験を受けさせろ! 約束だぞ。何とか言え!」
そう彼は怒鳴って、また泣き崩れていた。
そのとき突然、優希の胸に置かれているペンダトが、青く輝き始めた。その光は、彼女の体を、胎児のように優しく包み込んで、全身を青で染めている。その青さは段々と増していた。
その青さが頂点となったとき、ペンダントの1カラットのダイヤモンドが砕け散った。そのかけらの細かい粒子達は、ゆっくりと渦を巻いて、窓から天空へと飛び出した。そして、それらは赤い星に吸収されていた。
赤い星も、みるみると巨大に膨れている。そして、その星は爆発した。その爆風は、多くの赤い光を地上に送っている。その光の全ては、病室を覆いつくして、強い衝撃波で三人は気絶した。
やがて、その部屋には、雪解けを告げるような朝日が、静かに差し込んでいた。小鳥の囀りも流れている。しかし、三人は、まだ床で倒れて眠っていた。
「和也。おはよう。試験合格だね」
何故か、優希はベッドの上で上半身を起こしている。そして、左手の指輪を和也の方に向けて、けろっとした笑顔で、彼を呼んでいた。
その声に気がついた和也は飛び起きた。そして、彼は顔を何回も叩いている。夢ではない。そう思うと、彼の胸には超新星爆発のような熱い安堵の心が湧き出して、彼女を手厚く抱きしめていた。
そして、感涙に噎ぶ母親と豊美も、優希を囲んで頬を擦りつけて、踊っていた。
空には大きな眩しい太陽が輝いて、カモメが優雅に舞っていた。
三年後、二人は佐世保のアーケードの外れに、赤レンガの小さなブティックを出していた。そこには、彼女の天然で楽しそうな笑顔が広がっていた。
彼女が選ぶ服のセンスは、二十代前半の女性に受けていた。狭い店内は若い女性客で賑わっている。そして、彼はそろばんを弾いて、商品の出し入れで汗を流していた。
夕方六時を過ぎると、二人は店を閉めて、近くのスーパーで買い物をする。そして、二人で仲良く手を繋いで、川沿いの白い戸建に戻る。
そんな平凡な毎日の繰り返しだったが、夕方になると、その白い家からは、笑い声が溢れ続けていた。夜空の赤い星は消え去っていたが、月の光が優しくその家を見守っていた。

Pt900超大粒1.5ctダイヤモンドリング
しかし、ペンダトに反応は何もなかった。
和也は再び心の中で強く、
「ペンダントよ、青く光れ!」と叫んだ。
それでも、何も反応はなかった。
和也は、呆然と光らないペンダトを見つめていた。何故、一番大事なときに光らない。もう、パワーが無くなったのか。彼は、そう思った。
そして、和也は、それまで随分と運の無駄使いをしていたと心の中で振り返っていた。十年間、ギャンブルで一喜一憂を楽しんで浪費をした。だから、肝心なときに光らない。もう、ギャンブルは止めようと、彼は心に誓った。
和也は、もう必要のなくなったペンダントを、ゆっくりと優希の首から掛けた。そして、最後の別れをするように、彼女の頭をそっと撫でていた。
「俺に、最後の試験を受けさせろ! 約束だぞ。何とか言え!」
そう彼は怒鳴って、また泣き崩れていた。
そのとき突然、優希の胸に置かれているペンダトが、青く輝き始めた。その光は、彼女の体を、胎児のように優しく包み込んで、全身を青で染めている。その青さは段々と増していた。
その青さが頂点となったとき、ペンダントの1カラットのダイヤモンドが砕け散った。そのかけらの細かい粒子達は、ゆっくりと渦を巻いて、窓から天空へと飛び出した。そして、それらは赤い星に吸収されていた。
赤い星も、みるみると巨大に膨れている。そして、その星は爆発した。その爆風は、多くの赤い光を地上に送っている。その光の全ては、病室を覆いつくして、強い衝撃波で三人は気絶した。
やがて、その部屋には、雪解けを告げるような朝日が、静かに差し込んでいた。小鳥の囀りも流れている。しかし、三人は、まだ床で倒れて眠っていた。
「和也。おはよう。試験合格だね」
何故か、優希はベッドの上で上半身を起こしている。そして、左手の指輪を和也の方に向けて、けろっとした笑顔で、彼を呼んでいた。
その声に気がついた和也は飛び起きた。そして、彼は顔を何回も叩いている。夢ではない。そう思うと、彼の胸には超新星爆発のような熱い安堵の心が湧き出して、彼女を手厚く抱きしめていた。
そして、感涙に噎ぶ母親と豊美も、優希を囲んで頬を擦りつけて、踊っていた。
空には大きな眩しい太陽が輝いて、カモメが優雅に舞っていた。
三年後、二人は佐世保のアーケードの外れに、赤レンガの小さなブティックを出していた。そこには、彼女の天然で楽しそうな笑顔が広がっていた。
彼女が選ぶ服のセンスは、二十代前半の女性に受けていた。狭い店内は若い女性客で賑わっている。そして、彼はそろばんを弾いて、商品の出し入れで汗を流していた。
夕方六時を過ぎると、二人は店を閉めて、近くのスーパーで買い物をする。そして、二人で仲良く手を繋いで、川沿いの白い戸建に戻る。
そんな平凡な毎日の繰り返しだったが、夕方になると、その白い家からは、笑い声が溢れ続けていた。夜空の赤い星は消え去っていたが、月の光が優しくその家を見守っていた。

Pt900超大粒1.5ctダイヤモンドリング
1カラットの奇跡 第十話 ペンダントよ、青く光れ!(5)
その日は仕事納めだった。街を流れているサラリーマンの顔には笑顔が溢れていた。しかし、和也の顔は固かった。それは、最後の勝負の時刻が刻々と迫っていたからだ。
和也は、朝から殆ど仕事をしなかった。彼は壁の時計を見つめて長いカウントダウンをしていた。
和也の準備は完璧に殆ど終えていた。飛行機やレンタカーの予約は無論だった。西海橋のホテルのロイヤルスイートを押さえて、朝のヨットでのモーニングクルーズのオプションも付けていた。そして、優希の機嫌を取る必需品の先兵。ピーさんのぬいぐるみも、彼の鞄の中に納まっている。彼は頭の中でイメージトレーニングを何回も繰り返していた。
十四時を過ぎて、和也は大掃除を始めていた。と言っても、彼は椅子に座って腕を組んで浩二と高志に指示をしているだけだった。
二人はぶつぶつと文句を言っていたが、素直に机の上に立って蛍光灯を外して雑巾で拭いていた。
和也は、二人の姿を見て顔を広げていた。そのとき、彼の携帯からダイヤモンドが流れた。その着信表示は、以外にも豊美からだった。その大事な日に、また女難の相かとモテル男は辛いと彼はさらに顔を広げた。そして、ベランダへ歩いて電話を取った。
「豊美です。大変なの」
豊美は切羽詰った声を出していた。
しかし、和也はクールに突き放して、
「何だ。俺は、今日は忙しいのだ。手短にしてくれ」
「優希が、車に跳ねられたの。お昼ごはんの帰りよ。今、救急車で運ばれて、一緒に病院に居るのよ」
豊美はパニック気味になっている。
和也は驚いて顔が縮まった。
「それで、大丈夫なのか」
「それが、かなり悪いの。意識は殆どないわ。手術室に運ばれたの。でも、うわごとで、貴方の名前を何回も呼んでいたわ。それに、指輪をはめてと、ときどき、口に出していたの。何でもいいから、早くこっちに来てあげて」
豊美は泣き出していた。
「分かった。病院の場所を教えてくれ」
和也は血相を変えた顔で部屋に戻った。彼は慌てて机の下に置いてある荷物を抱えている。そして、走って部屋から出た。
それを見ていた浩二と高志は、目が点になっていた。そして、掃除を止めて席に座って大きな伸びをした。
その日の夜八時頃、和也は佐世保市内の大きな病院の駐車場に着いた。そして、彼は長崎空港で借りた白いレンタカーから降りて病院のロビーへ急いで走っていた。
その辺りは、冬の海の底のように冷たい闇で包まれていた。そして、赤い星は弱々しく点滅をしている。その灯火は、すぐに消えてなくなりそうだった。
ロビーでは、豊美が待っていた。そして、彼女の目は赤くなっており、表情も暗かった。
和也は豊美と一緒にICUに静かに入った。
そこには、無言でベッドに横たわっている優希の姿があった。彼女は頭に包帯を巻いて酸素マスクを着けていた。そして、その脇には、心配そうな目で彼女を見つめている彼女の母の姿があった。
和也は優希の母に軽く会釈をして彼女の傍に近寄った。そして、彼は静かに彼女の名前を呼んだ。だが、彼女の反応はなかった。
優希の手術は、彼女の医師いわく、成功だった。しかし、その晩が峠だとも言っていた。
優希の心電図の波は弱々しく流れていた。そして、彼女は寂しそうに眠っており、三人は唯黙って彼女を見守るしかなかった。
その部屋の空気は重々しかった。そして、特有の消毒薬の匂いがそれを増長している。天井の蛍光灯も古く薄暗かった。
和也は部屋に流れている空気から縁起の悪さを感じていた。せめて、蛍光灯くらいは新品なものに取り替えてやりたかった。そして、その部屋を光で埋め尽くしたかった。そうすれば、優希も必ず元気になると彼は信じていた。
凍りつくような闇の流れはゆっくりと進んだ。そして、零時を回っていた。
そのとき突然、優希の口元がかすかに動いた。
「和也。ごめんなさい。指輪をはめて。お願い」
その優希の声は、蚊の鳴くような小さな囁きだった。けれども、三人の耳へは、はっきりと届いていた。だが、彼女は静かに深い眠りへまた落ちた。
母親と豊美は、涙を流して和也を見つめて促している。
和也は涙を堪えて軽くうなずいた。彼は上着の内ポケットから大事そうに小箱を取り出した。そして、静かに蓋を開けた。
その中からは、1カラットのダイヤが現れた。そして、溢れるばかりの輝きを放った。その優しい光は、部屋一面を明るく埋め尽くしていた。
和也の腕は震えていた。しかし、彼はそれを抑えて、ゆっくりと優希の左手の薬指にはめた。
すると、優希の顔には幸せに満ち溢れている笑顔が広がった。そして、心電図の鼓動も少し強くなった。
その顔を見た三人は安堵した。凍えるような横殴りの吹雪の山中で、一軒の山小屋を見つけて、暖炉の前で手足をほぐしているような心持だった。後は、優希が目を開けるのを待つだけだった。三人は、そう信じていた。
安心して見守れる時が暫く続いた。もう四時を回っている。朝になれば優希は目覚めるだろうと、和也は信じている。そうしたら、優しく、「おはよう」と声を掛けてやろうと、彼は考えている。もうすぐだと、眠さを堪えて、その瞬間に彼は備えていた。
突然、優希の目から一滴の涙が、細い糸のように、すっと零れ落ちた。そして、心電図の波が大きく崩れ始めた。その波は、緩やかな横波から、斜めへ縦へと大きく迷走をしている。
そして、慌しく主治医が駆けつけた。看護婦も必死だった。電気ショックで、優希の体が大きく飛んだ。そして、三人は手を握って祈りを込めていた。
午前四時三十七分だった。
その部屋には、もう医師達の姿はなかった。女達が、床に泣き崩れているだけだった。
和也は全身に力を込めて、倒れるのを堪えていた。しかし、涙は溢れて止まらなかった。ビデオを巻き戻すように、優希との思い出が、寂しく切なく流れている。そして、彼はついに崩れ落ちて、両膝を床について頭を垂れていた。
和也の頭の中は真っ白だった。何が起こったのか理解出来なかった。いや、理解したくなかった。
もう必要のなくなった酸素マスクを外している優希の顔は、頬が緩やかに広がって、まるで笑って眠っているようだった。
しかし、その顔を見ていた和也は、無情の闇のように、寂しく冷たい風が、心の中を流れていた。彼は胸が強く締めつけられるように苦しくなった。
和也の心には、大きな無の穴が、ぽかんと空いていた。そして、全ての活力が、そこへ落ちていた。彼の気力をどん底へと導いている。さらに、女達の啜り泣きも、それを増長した。
和也は、もっと色々と優希を喜ばせてやりたかった。天使のような微笑を、もっと多く見たかった。もっと笑い声も聞きたかった。もう一度、あのブルーのスペシャルも、美味しそうに食べてやりたかった。そして、何よりも、優希の傍に、もっと居てやりたかった。そう思うと、和也は目を真っ赤にして、無念の思いで胸が一杯だった。
何故、事故に遭ったのが優希なのかと和也は激しく思った。彼は代わってやりたかった。その方が楽だった。
しかし、それが運命というものだった。数多くある細い糸が、何処かで切れていなければ、優希は笑って和也の前で話していた。
だが、多くの優希に繋がる細い糸を、和也は無意識に切っていた。もっと、優希に心を強く彼が向けていれば、その糸は切れなかった。
和也と優希の八ヶ月間は、長いようで短かった。二人には物理的な空間の隔たりも存在していた。その為に、会う回数は制限されていた。そして、幾つかのすれ違いもあった。しかし、二人の心の気綱は時空を超えて、ときには赤い星の力を借りて、何とか繋いでいた。それは、良いことも悪いことも、二人が苦労して築いた大切な思い出だった。
しかし、優希はもう話すことも、歩くことも、あの至福の表情で食べることも、そして、笑うこともない。
もはや、全ては完全に終わった。ゲームオーバーだった。リセットすることは出来ない。もう、何を期待しても、望んでも、願っても、希望を持っても、優希のドラマは、新たに生まれない。それが、人の死。そして、現実だった。
和也は、朝から殆ど仕事をしなかった。彼は壁の時計を見つめて長いカウントダウンをしていた。
和也の準備は完璧に殆ど終えていた。飛行機やレンタカーの予約は無論だった。西海橋のホテルのロイヤルスイートを押さえて、朝のヨットでのモーニングクルーズのオプションも付けていた。そして、優希の機嫌を取る必需品の先兵。ピーさんのぬいぐるみも、彼の鞄の中に納まっている。彼は頭の中でイメージトレーニングを何回も繰り返していた。
十四時を過ぎて、和也は大掃除を始めていた。と言っても、彼は椅子に座って腕を組んで浩二と高志に指示をしているだけだった。
二人はぶつぶつと文句を言っていたが、素直に机の上に立って蛍光灯を外して雑巾で拭いていた。
和也は、二人の姿を見て顔を広げていた。そのとき、彼の携帯からダイヤモンドが流れた。その着信表示は、以外にも豊美からだった。その大事な日に、また女難の相かとモテル男は辛いと彼はさらに顔を広げた。そして、ベランダへ歩いて電話を取った。
「豊美です。大変なの」
豊美は切羽詰った声を出していた。
しかし、和也はクールに突き放して、
「何だ。俺は、今日は忙しいのだ。手短にしてくれ」
「優希が、車に跳ねられたの。お昼ごはんの帰りよ。今、救急車で運ばれて、一緒に病院に居るのよ」
豊美はパニック気味になっている。
和也は驚いて顔が縮まった。
「それで、大丈夫なのか」
「それが、かなり悪いの。意識は殆どないわ。手術室に運ばれたの。でも、うわごとで、貴方の名前を何回も呼んでいたわ。それに、指輪をはめてと、ときどき、口に出していたの。何でもいいから、早くこっちに来てあげて」
豊美は泣き出していた。
「分かった。病院の場所を教えてくれ」
和也は血相を変えた顔で部屋に戻った。彼は慌てて机の下に置いてある荷物を抱えている。そして、走って部屋から出た。
それを見ていた浩二と高志は、目が点になっていた。そして、掃除を止めて席に座って大きな伸びをした。
その日の夜八時頃、和也は佐世保市内の大きな病院の駐車場に着いた。そして、彼は長崎空港で借りた白いレンタカーから降りて病院のロビーへ急いで走っていた。
その辺りは、冬の海の底のように冷たい闇で包まれていた。そして、赤い星は弱々しく点滅をしている。その灯火は、すぐに消えてなくなりそうだった。
ロビーでは、豊美が待っていた。そして、彼女の目は赤くなっており、表情も暗かった。
和也は豊美と一緒にICUに静かに入った。
そこには、無言でベッドに横たわっている優希の姿があった。彼女は頭に包帯を巻いて酸素マスクを着けていた。そして、その脇には、心配そうな目で彼女を見つめている彼女の母の姿があった。
和也は優希の母に軽く会釈をして彼女の傍に近寄った。そして、彼は静かに彼女の名前を呼んだ。だが、彼女の反応はなかった。
優希の手術は、彼女の医師いわく、成功だった。しかし、その晩が峠だとも言っていた。
優希の心電図の波は弱々しく流れていた。そして、彼女は寂しそうに眠っており、三人は唯黙って彼女を見守るしかなかった。
その部屋の空気は重々しかった。そして、特有の消毒薬の匂いがそれを増長している。天井の蛍光灯も古く薄暗かった。
和也は部屋に流れている空気から縁起の悪さを感じていた。せめて、蛍光灯くらいは新品なものに取り替えてやりたかった。そして、その部屋を光で埋め尽くしたかった。そうすれば、優希も必ず元気になると彼は信じていた。
凍りつくような闇の流れはゆっくりと進んだ。そして、零時を回っていた。
そのとき突然、優希の口元がかすかに動いた。
「和也。ごめんなさい。指輪をはめて。お願い」
その優希の声は、蚊の鳴くような小さな囁きだった。けれども、三人の耳へは、はっきりと届いていた。だが、彼女は静かに深い眠りへまた落ちた。
母親と豊美は、涙を流して和也を見つめて促している。
和也は涙を堪えて軽くうなずいた。彼は上着の内ポケットから大事そうに小箱を取り出した。そして、静かに蓋を開けた。
その中からは、1カラットのダイヤが現れた。そして、溢れるばかりの輝きを放った。その優しい光は、部屋一面を明るく埋め尽くしていた。
和也の腕は震えていた。しかし、彼はそれを抑えて、ゆっくりと優希の左手の薬指にはめた。
すると、優希の顔には幸せに満ち溢れている笑顔が広がった。そして、心電図の鼓動も少し強くなった。
その顔を見た三人は安堵した。凍えるような横殴りの吹雪の山中で、一軒の山小屋を見つけて、暖炉の前で手足をほぐしているような心持だった。後は、優希が目を開けるのを待つだけだった。三人は、そう信じていた。
安心して見守れる時が暫く続いた。もう四時を回っている。朝になれば優希は目覚めるだろうと、和也は信じている。そうしたら、優しく、「おはよう」と声を掛けてやろうと、彼は考えている。もうすぐだと、眠さを堪えて、その瞬間に彼は備えていた。
突然、優希の目から一滴の涙が、細い糸のように、すっと零れ落ちた。そして、心電図の波が大きく崩れ始めた。その波は、緩やかな横波から、斜めへ縦へと大きく迷走をしている。
そして、慌しく主治医が駆けつけた。看護婦も必死だった。電気ショックで、優希の体が大きく飛んだ。そして、三人は手を握って祈りを込めていた。
午前四時三十七分だった。
その部屋には、もう医師達の姿はなかった。女達が、床に泣き崩れているだけだった。
和也は全身に力を込めて、倒れるのを堪えていた。しかし、涙は溢れて止まらなかった。ビデオを巻き戻すように、優希との思い出が、寂しく切なく流れている。そして、彼はついに崩れ落ちて、両膝を床について頭を垂れていた。
和也の頭の中は真っ白だった。何が起こったのか理解出来なかった。いや、理解したくなかった。
もう必要のなくなった酸素マスクを外している優希の顔は、頬が緩やかに広がって、まるで笑って眠っているようだった。
しかし、その顔を見ていた和也は、無情の闇のように、寂しく冷たい風が、心の中を流れていた。彼は胸が強く締めつけられるように苦しくなった。
和也の心には、大きな無の穴が、ぽかんと空いていた。そして、全ての活力が、そこへ落ちていた。彼の気力をどん底へと導いている。さらに、女達の啜り泣きも、それを増長した。
和也は、もっと色々と優希を喜ばせてやりたかった。天使のような微笑を、もっと多く見たかった。もっと笑い声も聞きたかった。もう一度、あのブルーのスペシャルも、美味しそうに食べてやりたかった。そして、何よりも、優希の傍に、もっと居てやりたかった。そう思うと、和也は目を真っ赤にして、無念の思いで胸が一杯だった。
何故、事故に遭ったのが優希なのかと和也は激しく思った。彼は代わってやりたかった。その方が楽だった。
しかし、それが運命というものだった。数多くある細い糸が、何処かで切れていなければ、優希は笑って和也の前で話していた。
だが、多くの優希に繋がる細い糸を、和也は無意識に切っていた。もっと、優希に心を強く彼が向けていれば、その糸は切れなかった。
和也と優希の八ヶ月間は、長いようで短かった。二人には物理的な空間の隔たりも存在していた。その為に、会う回数は制限されていた。そして、幾つかのすれ違いもあった。しかし、二人の心の気綱は時空を超えて、ときには赤い星の力を借りて、何とか繋いでいた。それは、良いことも悪いことも、二人が苦労して築いた大切な思い出だった。
しかし、優希はもう話すことも、歩くことも、あの至福の表情で食べることも、そして、笑うこともない。
もはや、全ては完全に終わった。ゲームオーバーだった。リセットすることは出来ない。もう、何を期待しても、望んでも、願っても、希望を持っても、優希のドラマは、新たに生まれない。それが、人の死。そして、現実だった。
1カラットの奇跡 第十話 ペンダントよ、青く光れ!(4)
和也は自宅に戻っていた。風呂から上がって、彼は缶ビールの栓を抜いた。そして、優希にどうやって誤解を解くか、じっくりと考えていた。
和也は携帯を取り出して優希に電話を掛けた。しかし、彼女は電源を切っており通じなかった。仕方がないので、彼はメールを打つことにした。
『優希へ。俺も前に一回、お前のことを誤解した。だから、あまり強くは言えない。でも、俺を信じてくれ。彼女とは何もない。あれは、彼女の悪い悪戯だ。大阪でも悪戯を楽しんでいただろう。信じて貰えない辛さが、骨身に染みて分かった。あのときのお前の辛さが、分かったよ。俺は優希を愛している。せめてもう一度だけ、何かチャンスをくれ』
右手でペンダントを握り締めて、和也は振り絞るように願いを込めた。
すると、ペンダントは、その願いに反応するように青い光を放った。その光は窓の外の赤い星に跳ね返って佐世保の方向へ飛んだ。
その光の行く先を見ていた和也は、後のことは天に任せることにした。そして、彼はゆっくりとベッドに入って眠った。
その翌日の朝は、和也の心とシンクロするように、一番の寒さだった。彼は冷たい風にさらされて公園の脇を歩いている。その緑は枯れ落ちて、墓場のような寂しさを彼は感じていた。
和也は何時ものカフェに辿り着いた。そして、彼の体は温まって、少しほっとした。やはり、その場所が彼に取っては一番安らげた。彼の傷ついた心を癒してくれる唯一の空間だった。
和也は暖かいラテを飲んで凍えた体をほぐしていた。そして、マルボロに火をつけて何気なく携帯を開いた。
そこには、メールの着信が一件あった。それは優希からだった。入学試験の結果通知を開くように、どきどきしながら、メールの本文を和也は読んだ。
『和也へ。昨日は取り乱してごめんなさい。そうだね。可哀相だから、もう一度だけチャンスをあげる。お正月ではなく、仕事が終わったら、年末にすぐ佐世保に来てね。そして、私を最高に楽しませてね。そうしたら、あの指輪をはめてあげる。でも、まだ許した訳ではないからね。全ては年末よ。最後の試験がんばってね♪』
和也は心の中で、「ヨッシャー」と叫んで携帯を閉じた。そして、その場で立ち上がって元気な笑顔で天井を見上げていた。
和也は周りの視線に気がついた。そして、それを誤魔化すように壁の時計に目をやった。
その時計の針は出社時刻を回っていた。
和也は我に返って不味いと思った。そして、慌てて店を飛び出して会社へ向った。
和也は携帯を取り出して優希に電話を掛けた。しかし、彼女は電源を切っており通じなかった。仕方がないので、彼はメールを打つことにした。
『優希へ。俺も前に一回、お前のことを誤解した。だから、あまり強くは言えない。でも、俺を信じてくれ。彼女とは何もない。あれは、彼女の悪い悪戯だ。大阪でも悪戯を楽しんでいただろう。信じて貰えない辛さが、骨身に染みて分かった。あのときのお前の辛さが、分かったよ。俺は優希を愛している。せめてもう一度だけ、何かチャンスをくれ』
右手でペンダントを握り締めて、和也は振り絞るように願いを込めた。
すると、ペンダントは、その願いに反応するように青い光を放った。その光は窓の外の赤い星に跳ね返って佐世保の方向へ飛んだ。
その光の行く先を見ていた和也は、後のことは天に任せることにした。そして、彼はゆっくりとベッドに入って眠った。
その翌日の朝は、和也の心とシンクロするように、一番の寒さだった。彼は冷たい風にさらされて公園の脇を歩いている。その緑は枯れ落ちて、墓場のような寂しさを彼は感じていた。
和也は何時ものカフェに辿り着いた。そして、彼の体は温まって、少しほっとした。やはり、その場所が彼に取っては一番安らげた。彼の傷ついた心を癒してくれる唯一の空間だった。
和也は暖かいラテを飲んで凍えた体をほぐしていた。そして、マルボロに火をつけて何気なく携帯を開いた。
そこには、メールの着信が一件あった。それは優希からだった。入学試験の結果通知を開くように、どきどきしながら、メールの本文を和也は読んだ。
『和也へ。昨日は取り乱してごめんなさい。そうだね。可哀相だから、もう一度だけチャンスをあげる。お正月ではなく、仕事が終わったら、年末にすぐ佐世保に来てね。そして、私を最高に楽しませてね。そうしたら、あの指輪をはめてあげる。でも、まだ許した訳ではないからね。全ては年末よ。最後の試験がんばってね♪』
和也は心の中で、「ヨッシャー」と叫んで携帯を閉じた。そして、その場で立ち上がって元気な笑顔で天井を見上げていた。
和也は周りの視線に気がついた。そして、それを誤魔化すように壁の時計に目をやった。
その時計の針は出社時刻を回っていた。
和也は我に返って不味いと思った。そして、慌てて店を飛び出して会社へ向った。