ルビーの気まぐれ 目次
ルビーの気まぐれ 創作後記
最後まで長いお話につき合って頂き、ありがとうございます。
終わりまで読んでいただけて感謝しています。
少しでも楽しんで頂けたなら感激ですね。
この作品は前作「1カラットの奇跡」の不思議な宝石の世界観を一歩押し広げて物語を進めました。
ベースとなるリアルな話がなかったので、ストーリーを考えるのに苦労しました。
その代わりに、舞台設定を普段の職場環境や、昔よく仕事でいった札幌の町を描写することで、楽をしました。
書き終わって振り返ると、ルビーの力の副作用がちょっと過激すぎたかもと、思っています。
でも、これぐらい大げさなリアクションのほうが面白いかなとも思っています。
今回は女性を主人公にして物語を進めたので、心情とか行動の描写に苦労しました。
前作を読んで頂いた友人から、恋愛小説は女性読者が多いから女性主人公のほうが共感できると、アドバイスされたのがきっかけで、女性主人公に挑戦してみました。
必然的にボーイッシュな女性キャラになりましたが、こういう行動力のある女性はけっこう好きかもしれませんね。
次回は、更にこの不思議な宝石の世界観を押し広げていこうと思います。
ただ時間がかかりますので、しばらくお待ちください。
それでは、ごきげんよう!
終わりまで読んでいただけて感謝しています。
少しでも楽しんで頂けたなら感激ですね。
この作品は前作「1カラットの奇跡」の不思議な宝石の世界観を一歩押し広げて物語を進めました。
ベースとなるリアルな話がなかったので、ストーリーを考えるのに苦労しました。
その代わりに、舞台設定を普段の職場環境や、昔よく仕事でいった札幌の町を描写することで、楽をしました。
書き終わって振り返ると、ルビーの力の副作用がちょっと過激すぎたかもと、思っています。
でも、これぐらい大げさなリアクションのほうが面白いかなとも思っています。
今回は女性を主人公にして物語を進めたので、心情とか行動の描写に苦労しました。
前作を読んで頂いた友人から、恋愛小説は女性読者が多いから女性主人公のほうが共感できると、アドバイスされたのがきっかけで、女性主人公に挑戦してみました。
必然的にボーイッシュな女性キャラになりましたが、こういう行動力のある女性はけっこう好きかもしれませんね。
次回は、更にこの不思議な宝石の世界観を押し広げていこうと思います。
ただ時間がかかりますので、しばらくお待ちください。
それでは、ごきげんよう!
ルビーの気まぐれ 第九話 北の国から(6)
春になり、二人は結婚することになった。美奈子の招待客のことを考えて、札幌のホテルで式を挙げることにした。小樽よりは、東京から来やすいだろうと考えたからだ。
四月だというのに、まだ外は吹雪いており、桜の咲く気配もなかった。でも、二人の心の中にはそよ風が吹いていた。
式は神前だったので、美奈子の最初の衣装は鶴の絵羽模様の内掛けだった。披露宴が始まった頃は、帯できつく腹を締めつけられていたせいで、目の前に出された至極のフレンチに手を出すことが出来なかった。美奈子は高砂で雛人形のようにおとなしくしているしかなかった。
匂いだけ嗅がされて、美奈子は拷問よねと思った。けれども、それで良かったと考えた。花嫁が大きな口で料理を頬張る姿は絵にならないだろうと言い聞かせ、ただ見つめるだけで料理の艶やかな色を楽しむことにした。
ケーキ入刀後に、白いウェディングドレスに着替え、腹は楽になった。これなら、ケーキを全部食べられるかもと、山中に耳打ちした。でも、使い回すものだから、食べられるように作っていないことをプロの山中に告げられて、美奈子は少し肩を落とした。
グラスが崩れ落ちないかと、心配したシャンパンシャワーも無事に終え、美奈子は黄色のイブニングドレスに色を替えた。キャンドルサービスの始まりだった。円卓を一席ずつ回る最後のイベントは、やはり緊張した。
いくつかのテーブルを回り、渚がいる島に辿りついたときには、少しほっとした。キャンドルに火が灯ると、渚の笑顔が現れ、テンションの高い声で祝福してくれた。でも、隣の席が二席空いていたのは寂しかった。
色々あったが、川村と沙織も呼んでいた。やはり、潰れた会社で最後までがんばった同志だったからだ。来るような返事は本人たちからも直接貰っていた。
二人以外の美奈子の招待客は前の日から来ていた。親戚たちは母親に任せ、美奈子は渚を時計台や羊ヶ丘に案内し、すすきのの日劇ビル脇のジンギスカン屋で食事をした。渚の話では、二人は当日の九時着の便で来るようなことを言っていた。六月に結婚することも聞かされた。
美奈子はむっとしたが、流れからいって自然だろうと思うことにした。それに、自分の方が先に幸せになるのだから、もう二人のことは許して上げても良いかなと半分くらい考えることにした。
だから、キャンドルに火をつけた後には、二人に笑顔を送ろうと心に決めていた。それなのに、二人はいない。胸の中に何か重い荷物が残ったようで、美奈子は崩した顔で溜息をついた。
笑ったり、泣いたりしながら、人生最大のイベントは漸く終わった。やはり、お色直し二回は慌しく、殆ど高砂に座っていた記憶が美奈子にはなかった。
でも、終わったからといって、のんびりはしていられない。直ぐに、新千歳空港に向かわなければならなかった。ハネムーンへ飛び立つからだ。店のことがあるから、当日出発で韓国に三泊して帰ってくる予定だった。でも、美奈子はそれで十分だった。ハネムーンより、山中と店でケーキ作りをしていたほうが楽しいからだ。
ホテルのバスで空港に近づくにつれ、何か異様な雰囲気が伝わってきた。車が東京の道のように渋滞している。普段は渋滞という言葉すら、縁がない場所だった。時間ギリギリでバスが空港に漸く辿りつくと、駐車場の入口には、『空港閉鎖中』と、大きな看板が立っていた。看板を見た車たちは渋々と引き返しているようで、それが渋滞の原因だった。
バスの運転手がラジオを入れた。羽田発九時着の便が、着陸に失敗して炎上したとアナウンサーは繰り返し騒いでいる。イラク派兵問題の報復テロの可能性もあると熱く語っていた。
美奈子は脳みそが爆発しそうになった。心臓も破裂しそうな勢いで、川村の顔が頭の中をグルグルと回り出し、川村の顔が弾け飛ぶと、「途轍もない災いが訪れる」という占い師の言葉が浮かび上がり、美奈子は身が震えた。
右手のルビーを眺め、美奈子は自分の気まぐれで人が何人も死んだのではないかと、暫く悩んだ。でも、そのときは真剣だったはずと胸を張った。けれども、直ぐに山中の胸の中に飛び込んで、溢れる涙を垂らしながらこの人だけは放すもんかと、山中の体を強く抱きしめた。
山中もそっと両手を美奈子の背中に添えた。ゆっくりと体温を伝えるかのように壁となり、暫く美奈子の体を支えていた。
空には風はなかった。塵のように細かいパウダースノーが天より揺れ落ちている。路面のグレー掛かったアイスバーンを真綿色で染め直していく。全てを白いキャンバスにリセットするかのように、辺り一面を静かな音で埋めていくようでもあった。
ただ、黒いローブだけは白に染まらず、駐車場脇の看板から不気味な笑いを浮かべている魔術師は、札幌方向に戻り始めた美奈子のバスを見つめていた。

0.1ct ルビーペンダント ルビー
四月だというのに、まだ外は吹雪いており、桜の咲く気配もなかった。でも、二人の心の中にはそよ風が吹いていた。
式は神前だったので、美奈子の最初の衣装は鶴の絵羽模様の内掛けだった。披露宴が始まった頃は、帯できつく腹を締めつけられていたせいで、目の前に出された至極のフレンチに手を出すことが出来なかった。美奈子は高砂で雛人形のようにおとなしくしているしかなかった。
匂いだけ嗅がされて、美奈子は拷問よねと思った。けれども、それで良かったと考えた。花嫁が大きな口で料理を頬張る姿は絵にならないだろうと言い聞かせ、ただ見つめるだけで料理の艶やかな色を楽しむことにした。
ケーキ入刀後に、白いウェディングドレスに着替え、腹は楽になった。これなら、ケーキを全部食べられるかもと、山中に耳打ちした。でも、使い回すものだから、食べられるように作っていないことをプロの山中に告げられて、美奈子は少し肩を落とした。
グラスが崩れ落ちないかと、心配したシャンパンシャワーも無事に終え、美奈子は黄色のイブニングドレスに色を替えた。キャンドルサービスの始まりだった。円卓を一席ずつ回る最後のイベントは、やはり緊張した。
いくつかのテーブルを回り、渚がいる島に辿りついたときには、少しほっとした。キャンドルに火が灯ると、渚の笑顔が現れ、テンションの高い声で祝福してくれた。でも、隣の席が二席空いていたのは寂しかった。
色々あったが、川村と沙織も呼んでいた。やはり、潰れた会社で最後までがんばった同志だったからだ。来るような返事は本人たちからも直接貰っていた。
二人以外の美奈子の招待客は前の日から来ていた。親戚たちは母親に任せ、美奈子は渚を時計台や羊ヶ丘に案内し、すすきのの日劇ビル脇のジンギスカン屋で食事をした。渚の話では、二人は当日の九時着の便で来るようなことを言っていた。六月に結婚することも聞かされた。
美奈子はむっとしたが、流れからいって自然だろうと思うことにした。それに、自分の方が先に幸せになるのだから、もう二人のことは許して上げても良いかなと半分くらい考えることにした。
だから、キャンドルに火をつけた後には、二人に笑顔を送ろうと心に決めていた。それなのに、二人はいない。胸の中に何か重い荷物が残ったようで、美奈子は崩した顔で溜息をついた。
笑ったり、泣いたりしながら、人生最大のイベントは漸く終わった。やはり、お色直し二回は慌しく、殆ど高砂に座っていた記憶が美奈子にはなかった。
でも、終わったからといって、のんびりはしていられない。直ぐに、新千歳空港に向かわなければならなかった。ハネムーンへ飛び立つからだ。店のことがあるから、当日出発で韓国に三泊して帰ってくる予定だった。でも、美奈子はそれで十分だった。ハネムーンより、山中と店でケーキ作りをしていたほうが楽しいからだ。
ホテルのバスで空港に近づくにつれ、何か異様な雰囲気が伝わってきた。車が東京の道のように渋滞している。普段は渋滞という言葉すら、縁がない場所だった。時間ギリギリでバスが空港に漸く辿りつくと、駐車場の入口には、『空港閉鎖中』と、大きな看板が立っていた。看板を見た車たちは渋々と引き返しているようで、それが渋滞の原因だった。
バスの運転手がラジオを入れた。羽田発九時着の便が、着陸に失敗して炎上したとアナウンサーは繰り返し騒いでいる。イラク派兵問題の報復テロの可能性もあると熱く語っていた。
美奈子は脳みそが爆発しそうになった。心臓も破裂しそうな勢いで、川村の顔が頭の中をグルグルと回り出し、川村の顔が弾け飛ぶと、「途轍もない災いが訪れる」という占い師の言葉が浮かび上がり、美奈子は身が震えた。
右手のルビーを眺め、美奈子は自分の気まぐれで人が何人も死んだのではないかと、暫く悩んだ。でも、そのときは真剣だったはずと胸を張った。けれども、直ぐに山中の胸の中に飛び込んで、溢れる涙を垂らしながらこの人だけは放すもんかと、山中の体を強く抱きしめた。
山中もそっと両手を美奈子の背中に添えた。ゆっくりと体温を伝えるかのように壁となり、暫く美奈子の体を支えていた。
空には風はなかった。塵のように細かいパウダースノーが天より揺れ落ちている。路面のグレー掛かったアイスバーンを真綿色で染め直していく。全てを白いキャンバスにリセットするかのように、辺り一面を静かな音で埋めていくようでもあった。
ただ、黒いローブだけは白に染まらず、駐車場脇の看板から不気味な笑いを浮かべている魔術師は、札幌方向に戻り始めた美奈子のバスを見つめていた。

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ルビーの気まぐれ 第九話 北の国から(5)
美奈子は無言で山中の助手席に座っていた。夏に乗った黄色いスポーツカーではなく、白いワゴンだった。車体の側面には大きく赤い文字で、『ケーキの山中』と、書かれていた。
到着ロビーで再会した二人は口を交わせなかった。お互いに微笑み会うだけで、四ヶ月の空白を埋める適切な言葉が見つからなかった。お互いの笑顔だけが最適なものだったのかもしれない。
夏に見えた緑の景色はなく、外は白一色だった。粉雪が吹雪いており、前方も十メートルくらいしか先が見えなかった。どこが道路なのかも分からない。ただ、空中にぶら下がっている赤い矢印だけが、行く道を示していた。
「ねえ。宝って、道路だったの?」
「そうさ、道が分からなかったら、最悪死ぬからな。冬の北海道では一番の宝だろう」
左手をハンドルから放した山中は、指を一本立てながら笑った。
美奈子は山中の立てた指を両手でそっとつかんだ。
「やっぱり、神秘的な国!」
「いや、これも日本なんだ!」
赤い矢印が二人の空白の時を埋めた。夏の頃の熱い風が蘇り、どことなく気まずかった雰囲気は流れ去った。山中の住んでいる街へと続く赤い矢印は、二人にとって本当の宝だった。
それから、美奈子はケーキ修行の話を山中に聞き始めた。
「もう、モンブランは作れるの? 朝はナポレオンパイなの」
「イチゴのショートケーキだけさ」
「えっ、マジなの?」
顔を顰めながら、美奈子は山中を覗き込んだ。
「そう焦るなって、一つ一つやっていくさ」
「じゃあ、待っているからね」
美奈子は子供のような無邪気な表情を作った。
「ああ、がんばるよ。春になったら、また呼ばなきゃな」
「うんうん、呼ばなくてもいいの」
「食べてくれないの?」
「違うの。春までお店手伝いたい! ずうっとかも・・・・・・」
山中は急ブレーキを踏み、スタッドレスのタイヤはずるずると音を立てながら二十メートルくらい滑って車は止まった。ハンドルを左に切ったせいで、赤い矢印の境界線をはみ出している。目を大きくしながら、山中は美奈子に振り向いた。
「今、何って言った?」
「女に何回も言わせないの!」
「北海道で暮らすってことか?」
「夏に誘ったでしょう?」
澄ました顔で、美奈子は山中を見つめた。
「そうだけど、まあいいさ。オフクロも喜ぶしな」
山中はそっと美奈子を抱き寄せ、優しく唇を吸った。
日はすっかり落ちていたが、ヘッドライトが粉雪に当たり、ミラーボールのような華やかな光りが二人を包み込んでいた。
到着ロビーで再会した二人は口を交わせなかった。お互いに微笑み会うだけで、四ヶ月の空白を埋める適切な言葉が見つからなかった。お互いの笑顔だけが最適なものだったのかもしれない。
夏に見えた緑の景色はなく、外は白一色だった。粉雪が吹雪いており、前方も十メートルくらいしか先が見えなかった。どこが道路なのかも分からない。ただ、空中にぶら下がっている赤い矢印だけが、行く道を示していた。
「ねえ。宝って、道路だったの?」
「そうさ、道が分からなかったら、最悪死ぬからな。冬の北海道では一番の宝だろう」
左手をハンドルから放した山中は、指を一本立てながら笑った。
美奈子は山中の立てた指を両手でそっとつかんだ。
「やっぱり、神秘的な国!」
「いや、これも日本なんだ!」
赤い矢印が二人の空白の時を埋めた。夏の頃の熱い風が蘇り、どことなく気まずかった雰囲気は流れ去った。山中の住んでいる街へと続く赤い矢印は、二人にとって本当の宝だった。
それから、美奈子はケーキ修行の話を山中に聞き始めた。
「もう、モンブランは作れるの? 朝はナポレオンパイなの」
「イチゴのショートケーキだけさ」
「えっ、マジなの?」
顔を顰めながら、美奈子は山中を覗き込んだ。
「そう焦るなって、一つ一つやっていくさ」
「じゃあ、待っているからね」
美奈子は子供のような無邪気な表情を作った。
「ああ、がんばるよ。春になったら、また呼ばなきゃな」
「うんうん、呼ばなくてもいいの」
「食べてくれないの?」
「違うの。春までお店手伝いたい! ずうっとかも・・・・・・」
山中は急ブレーキを踏み、スタッドレスのタイヤはずるずると音を立てながら二十メートルくらい滑って車は止まった。ハンドルを左に切ったせいで、赤い矢印の境界線をはみ出している。目を大きくしながら、山中は美奈子に振り向いた。
「今、何って言った?」
「女に何回も言わせないの!」
「北海道で暮らすってことか?」
「夏に誘ったでしょう?」
澄ました顔で、美奈子は山中を見つめた。
「そうだけど、まあいいさ。オフクロも喜ぶしな」
山中はそっと美奈子を抱き寄せ、優しく唇を吸った。
日はすっかり落ちていたが、ヘッドライトが粉雪に当たり、ミラーボールのような華やかな光りが二人を包み込んでいた。
ルビーの気まぐれ 第九話 北の国から(4)
羽田に着いたのは十三時過ぎだった。美奈子は自動チェックイン機で搭乗手続きを済ませ、出発口Gに入ろうとした。そのとき、メールの着信音が鳴った。
『昨日は作りかけでどうした? 今夜はイヴだからワインを買って待っている』
川村からのメールだった。
巨乳には勝ったと、美奈子は一瞬笑みを零した。でも、力強く携帯電話の電源を切った。頬に力を入れ、人込みをかき分けて地下のポストオフィースに走り込んだ。窓口で封筒を買い、川村の住所を書き込む。合鍵を封筒の中にしまい込み、力を入れて糊付けをした。
美奈子は暫く封筒を見つめていた。心は既に決まっている。でも、未練が少しずつ湧き出てきた。けれども、川村の正体は分かっていた。直樹にしたように自分は実験台にされたのだと、心に強く言い聞かせ、溢れ出る思いを断ち切った。
大きく目を開いた美奈子は封筒を窓口のおじさんに渡し、ポストオフィースを後にした。出発口へと向かうエスカレータは、明るい日差しに包まれている。まるで天に昇っていくようで、美奈子の心は既に北の空を飛んでおり、次の扉を開き始めていた。
『昨日は作りかけでどうした? 今夜はイヴだからワインを買って待っている』
川村からのメールだった。
巨乳には勝ったと、美奈子は一瞬笑みを零した。でも、力強く携帯電話の電源を切った。頬に力を入れ、人込みをかき分けて地下のポストオフィースに走り込んだ。窓口で封筒を買い、川村の住所を書き込む。合鍵を封筒の中にしまい込み、力を入れて糊付けをした。
美奈子は暫く封筒を見つめていた。心は既に決まっている。でも、未練が少しずつ湧き出てきた。けれども、川村の正体は分かっていた。直樹にしたように自分は実験台にされたのだと、心に強く言い聞かせ、溢れ出る思いを断ち切った。
大きく目を開いた美奈子は封筒を窓口のおじさんに渡し、ポストオフィースを後にした。出発口へと向かうエスカレータは、明るい日差しに包まれている。まるで天に昇っていくようで、美奈子の心は既に北の空を飛んでおり、次の扉を開き始めていた。