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1カラットの奇跡 第四話 赤い星のプレゼント(2)

 和也は、車をシーリアお台場三番街で止めた。二人はそこにある寿司屋に入った。彼は人気の食べ放題コースを頼んだ。店はその時間でも結構込んでおり、少しざわついている。
暫くすると、グラスに入った生ビールが出た。そして、彼はグラスを右手で持って、優希の前に差し出した。
「二人の再会を祝って、乾杯だ。それと、これがご褒美だ」
「わ~、優希、感激です。やはり、和也さんは素敵な方だね。ご褒美、頂きます」
優希もグラスを持った。二人はゆっくりとビールを鳴らして、その時を楽しむように飲み出した。彼女は、暫く和也に、その日の研修販売の話をしていた。
和也は、腕時計をちらっと見て話し出した。
「さて、のんびりしている暇はないぞ。二時間だからな。さっさと頼め」
「えっ、それでは、早く頼まないとね。私、穴子から行きます!」
「待て、それは邪道だ。通は、玉からだ。俺は、玉から行く」
「きゃはっ、和也さんって、可愛い~。玉子から行くのは、お子様だけですよ。以外と子供だね」
「なっ、何を言っている。お前こそ生意気だ。お子ちゃまは、おとなしく玉から行け! それに、玉は店の顔だ。店によって、まるで味が違う。店の考え方が、一番出るネタだ。まず、店への挨拶として玉に手を付け、その考えを知る。程良い甘さの余韻を残して、白身に手を付ける。ヒカリモノで、酢を味わい。ようやく、味の濃い穴子やトロを楽しむ。最後は、あっさりしたイカで締める。こうやって、味のハーモニーを楽しむのが最高だ。これが、大人の寿司の食べ方だ。どうだ、参ったか!」
「あのね。時間制限があるこの店で、そんな悠長な食べ方をしていたら、ヒカリモノあたりで終わりだね。こういう店では、好きな物から行けですよ。それから、穴子のツメは、その店の歴史が染み込んでいます。私、その伝統を味わった方が、よっぽど店を知ることが出来ますよ。それに、私、お子ちゃまではないもん。どうだ、参ったか!」
 優希は、大きな胸を得意そうにつんと突き出して、軽く揺さぶっている。そして、口を尖らせて笑っていた。まるで、和也を誘っているようだった。
和也は、思わず視線をやってドキっとした。確かに、顔はお子ちゃまだが、その体は立派な大人だった。心を奪う麻薬のように。しかし、無理をして歯向かっている感じもした。それが、可愛い。彼は、そう思った。
「あっ、不味いぞ、もう三十分を過ぎている。早く、頼まないと」
「え~、それでは、穴子、ホタテ、トロ、ウニ、イクラ、あわび、アオヤギ、甘エビ、シャコ、サーモンを全部二貫ずつでお願いしますね」
「おい、いきなり二十貫か。食べられるのか」
「だって、時間がないもん。それに、お寿司ならいくらでも入りますよ」
 優希は、頬を躍らせて微笑んで明るく頼んでいた。
和也は、十貫を頼んでいる。しかし、中々寿司は出てこず、暫く待たされていた。まとめて頼んだのは、正解のようだった。
それから暫くして、漸く寿司が出た。優希は頬を伸ばして至福の顔をして黙々と食べている。その前もそうだったが、彼女は何かを食べているときが、一番幸せそうだった。
その姿を眺めていた和也は、だんだんと優希に愛着を感じ始めていた。
優希は簡単に、二十貫もの寿司を平らげた。そして、次に同じものをまた注文した。その寿司も、あっけなく器から姿を消していた。
しかし、和也は追加で五貫をこなすのが精一杯だった。優希の食欲に、彼は唖然としていた。

 コースの二時間が終わって、二人は店を出た。食後の散歩とばかりに、もう人の居ない人工の浜辺へと、腕を組んで向っている。夜空には、珍しく、月と幾ばくかの星が浮かんでいた。
優希は、浜辺で夜空を眺めていた。そして、静かに和也の耳元で囁いた。
「ねえ、こっちて、星が少ないね。佐世保は、もっと多くて、綺麗だね」
「そうか。だが、星より街の明かりの方が、ここでは最高だ」
「それもそうだね。あっちでは、この光はないからね。でも、あっちに帰ったら、きっと寂しいね。私、一人で夜空を見上げたら、泣いちゃうかもね」
 優希は空を見上げて瞳を湿らせて寂しそうに呟いていた。
和也は帰るという言葉で、何か切なさが込み上げた。そして、彼は優希を元気づけてやりたかった。
「それでは、もう一つご褒美だ。あの満月の左下の赤い星。優希星と名付けよう。俺が、お前にくれてやる。きっと佐世保でも見えるはずだ。泣きそうになったら、あの星を見ろ。俺も横浜から見上げて、パワーを送ってやる。これで、もう泣くことはないはずだ。あれは、今日から、お前の星だ」
和也は右手で力強く星を指している。
「でも、くれるって、あの星は和也さんの持ち物だったの?」
不思議そうな顔をして、優希は和也の耳元で甘く囁いた。
「いや、星は誰の持ち物でもないさ。でも、俺達二人だけの秘密なら、勝手にくれてやっても、誰も文句は言わない。お前が、あの星を食べて、消さない限りなあ」
「うっふ、面白いね。でも、すご~く素敵。何か一番凄いものを、貰った感じだね。私、がんばるよ。泣かないように。毎日、あの星を見る。だから、和也さんも毎日あの星を見ていてね。来月まで、私を忘れないでね」
優希は和也の腕を強くつかんでいた。
「ヨッシャー、わかった」
 二人は浜辺でチークを静かに踊り出した。どこからか、風は静かで緩やかな曲を運んでいた。水面に反射した街の明かりは、二人の影を薄く揺らしている。淡い黄色の月の光は、二人を優しく包み込んでいる。二人は夜空を見上げて優希星をじっと見つめていた。
そして、優希は静かに目を閉じていた。
その閉じた目に自然と反応して、和也は、そっと優しく唇を優希の唇に合わせた。その後ろでは、レインボーブリッジが緩やかに七色の光を揺らしていた。

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