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1カラットの奇跡 第六話 月明かりのハニーハント(1)

 月が替わって七月になっていた。梅雨はまだ明けていない。その日も朝から小雨が降り続いていた。
 夕暮れの薄明かりの中、和也は自宅の部屋で電気もつけずに、窓際の壁に背を持たれて、床に座っていた。彼は朝から、ずっとそうしている。いや、裕子の通夜の晩から、一週間近くそうしていた。勿論、会社には顔を出していない。
 和也は、じっと反対側の壁を見つめている。彼の顔色は暗かった。目の輝きもない。時折、彼は右手に持ったウィスキーのボトルを口に含んで溜息をつくと、また、壁を見ていた。その姿は、廃人のようでもあった。
 突然、呼鈴が鳴った。
 しかし、和也は反応しなかった。
 呼鈴は繰り返し、けたたましく鳴っている。そして、ドアを大きく何度も喧しく叩く音が、部屋中を鳴り響いていた。
 和也は、漸くゆっくりと立ち上がってドアの方に歩いていた。そして、彼はドアを開けた。そこには、心配そうな顔をした浩二が立っていた。
「あっ、佐藤さん。生きていたのですね。良かった。凄くほっとしましたよ」
 和也は無言で上がれというようなジェスチャーをして、キッチンの流しの前まで歩いてコップに水を入れて飲んでいた。そして、明かりをつけてテーブルに静かに腰を下ろした。
 浩二は和也の後に続くように歩いて、キッチンのテーブルに腰を下ろしていた。そして、途中で買った牛丼をテーブルの上に広げている。
「佐藤さん。どうせ、何も食べてないのでしょう。これ食べて下さいよ」
 浩二は牛丼を和也の前に置いた。そして、もう一つの牛丼を笑って食べ出した。
 和也もゆっくりと牛丼を食べ出した。彼は一週間近く碌なものを口にしていなかったので、その牛丼がもの凄く美味いと感じていた。そして、少し顔を明るくした。
「佐藤さん。そろそろ会社に来て下さいよ。皆心配して待っていますよ」
「そうか。しかしな、何もする気力がないのだ」
 和也は、少し弱々しい声で呟いた。
「そんなの。佐藤さんらしくないですよ」
「そうだな。しかしな・・・」
「あっ、聞いて下さいよ。俺がプレゼンした七友物産のシステムが取れたのですよ。帰りがけに営業から連絡があって。マジで嬉しいっす。これ見て下さい。俺が作った提案書です」
 浩二は明るい笑顔で、鞄から資料を取り出して和也に渡した。
「本当か。それは凄いな。一流商社だぞ。俺のやっている星村商事とは大違いだ」
 和也は、暫く資料を見ていた。
「おい。この資料で本当に取れたのか? 画面のデザインだけじゃないか。中身の機能の説明がどこにもない。通信方式すら書いていないぞ。どうやって、海外支店とデータのやり取りをするつもりだ。確かに、画面のデザインはさすがだが。これじゃ、外見だけで、唯の箱だな」
「そうなのですよ。俺も信じられないのです。中身の説明は佐藤さんに書いて貰おうと待っていたのですが、出て来ないから。そのまま出したのですよ。でも、営業部が、かなり接待攻勢を掛けたらしく。その勢いで落としたみたいです。俺、ちょっとピンチです。来週から先方と中身の細かい打ち合わせをするのです。佐藤さん。助けて下さいよ」
 浩二は少し顔を崩していた。
「しょうがないやつだな。しかし、それも良いかもな。やってみるか」
「本当ですか。助かります!」
「ああ、これくらい大きなシステムは、前からやってみたかったのだ。良いチャンスかもしれない」
 浩二は、ほっとした表情で肩を撫で下ろしていた。
「それと、高志も待っていますよ。俺が画面デザインを手伝った星村のやつ、出来上がったらしいです。来週納品だから早くテストしてくれとうるさいのですよ。画面は見ておきましたが、中身は佐藤さんに見て貰わないと」
「それはそうだったな。早くあれを片してしまわないとな。こうしては、いられん。明日から会社に行くぞ」
 和也は微笑んで目の輝きを取り戻していた。そして、牛丼を勢い良く食べ出した。

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