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1カラットの奇跡 第八話 助手席のジハード(1)

 九月に入って、日没が若干早くなっていた。しかし、暑さはそれまでと変わらなかった。夕暮れのオフィースで、和也はパソコンに向って仕事をしていた。
浩二がミィーティングから、和也の居るフロアーに戻って、席へと歩いていた。
そして、和也は浩二を呼び止めた。
「おう、浩二。今日の夜は暇か。少し付き合え」
「えっ、飲みですか。ちょっと、やらなければいけない仕事が残っています。勘弁して下さい」
「そうか。それは、残念だったな。折角、若い女を紹介してやろうと思ったのになあ。それなら、高志にでも紹介してやるか」
和也は一人で不気味に笑っている。
浩二は疑問の表情で、
「また、冗談でしょう。佐藤さんが、若い女を知っている訳がないですよ。からかっているのでしょう」
「いや、満更そうとも限らん。これだ。どうだ、参ったか!」
和也は携帯に写っている豊美の写真を、印籠のように前に突き出していた。
浩二は驚いて目を大きくした。
「マジですか。凄く可愛いいですね。それに、若そうですね」
「二十一だ。それに、彼氏と別れたばかりで、今はフリーだ。即、行けるかもしれないぞ」
和也は浩二の肩を軽く叩いた。
「俺、行きます! 是非お供させて下さい。それより、どうしたのですか。この娘を」
「理由は言えん。ゴチャゴチャ聞くようなら、高志にするぞ!」
「あっ、勘弁して下さい。黙って、ついて行きますから」
浩二は、ニコニコと平謝りだった。

 定時になって、二人は速やかに会社を出た。そして、合コンで使った横浜の洋風居酒屋へ入った。合コンのときと同じシャンデリアの下の横長のテーブルに二人は腰を下ろした。
 それから少し遅れて、豊美が二人の前に現われた。そして、彼女は浩二の前の席に腰を下ろした。
「こいつは、福山浩二といって、俺の悪い相棒だ」
和也はマルボロに火をつけてクールに紹介した。
「佐藤さん、悪いは余計です。思いやりのある相棒です。よろしく」
浩二は和也を少し怒った。そして、爽やかな笑顔で豊美に挨拶をした。
「そして、こちらが俺の友達の、その友達の吉村豊美さんだ。彼女は九州から出張でこっちに来ている」
和也はにこやかに微笑んでいた。
「豊美です。よろしくお願いします。ところで、佐藤さん、優希は友達ではなく、恋人なのでしょう」
豊美は可愛く浩二に笑顔を見せていた。しかし、和也には冷たい表情で皮肉を言っていた。
「えっ、何ですか。その優希っていうのは。佐藤さん、彼女が居るのですか」
浩二は驚いて大きな声を出していた。
「お前はうるさい! 豊美ちゃん、こいつは優希のことは、何も知らないから、友達でも問題は無い」
和也は浩二を怒鳴った。そして、豊美に優しく説明をしている。
しかし、豊美は急に怒り出して、
「それは、ダメよ。優希が可哀相よ。優希に報告するからね」
「それは、勘弁してくれ。訂正する。優希は恋人だ」
 和也は少し照れていた。
「佐藤さんも、隅に置けないですね。何時の間にか、女を作って。しかも、九州でしょう。これは、ぶっ飛びですね」
「だから、お前はうるさいと言っている! 優希の話をしにきたのではない。豊美ちゃんを、紹介しにきたのだ。早く、二人で話を始めろ。そうでないと、追い出すぞ!」
「あっ、勘弁して下さい。分かりましたよ。さあ、豊美ちゃん、まずは一杯どうぞ」
 浩二は和也の機嫌を取っていた。そして、豊美のグラスにビールを注いだ。
二人は楽しそうに会話を始めていた。
和也も満足そうに二人を眺めて黙々と酒を飲んでいた。

 二時間が過ぎた頃、和也は立ち上がった。
「俺は、この辺で帰る」
「もう、帰るのですか。まだ、早いですよ」
豊美は名残惜しそうに、和也を引き止めている。
しかし、和也は微笑んで、
「ちょっと、飲みすぎだ。それに、優希に電話をしないといけない時間だ」
「佐藤さん、にやけていますよ」
浩二は冷やかしていた。
和也は浩二の頭を軽く叩いて、
「お前はうるさいと言っている!」
「あっ、勘弁してくらはい」
「後は、二人の時間だ。がんばれ、最後まで行けるぞ!」
 和也は浩二の耳元で、意味深な笑いをして囁いた。
浩二も和也の顔を見て、にやついてビールを飲み干した。

和也は陽気に店を出て歩いていた。そして、携帯を取り出して、その一件を優希に電話で話した。

 その翌日、オフィースで和也は、何時ものようにメールのチェックを始めていた。
それから少し遅れて、浩二が仏頂面で現れた。
和也は興味津々に、
「おい、浩二。どうだ、昨日の首尾は?」
「最悪ですよ。玉を蹴り上げられて、逃げられました。まだ、痛みますよ」
浩二は顔を強張らせている。
「わっはは、それは最高だな。お前、本当に連れていったのか。ファッションホテルへ。馬鹿だな。笑いが、止まらんぞ」
和也は腹を抱えて大笑いをしていた。
「もう、最低の女でしたね。大体、佐藤さんが唆すから、こういうことになるのですよ」
「いや、お前の判断だ」
和也は目を大きく見開いて浩二を睨んだ。
「これだから、佐藤さんには、叶わないな。さて、仕事と」
 浩二は溜息を一回大きくついた。そして、パソコンに電源を入れて仕事を始めた。
和也も笑いを堪えながら仕事を続けていた。

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