1カラットの奇跡 第八話 助手席のジハード(5)
市内の道は込んでおり、車は中々高速の入口に辿り着けなかった。五十分を経過した頃、優希は少し不安の表情をしていた。
しかし、車が高速に入ると、光の道が開けた。和也は、ぐんぐんとスピードを上げて、ツバメのように車の間をすり抜ける。
優希はシートベルトを両手でしっかりとつかんで、我慢して流れに身をまかせている。
香織は後部座席で陽気にリズムを取って体を揺らしている。そして、そのクルージングを楽しんでいた。
車は暫く進んで、その窓の外には大阪湾に浮かぶ巨大な空母のような関西空港が現れた。車は急いで連絡橋を渡って、ポートターミナルを横切った。そして、駐車場に飛び込んだ。
三人は車を降りて走っていた。そして、ターミナルビルのANAのカウンター前に滑り込んだ。それは、ぎりぎりの二十分前だった。
優希は両手で和也の手をつかんで寂しそうな目をして、
「和也、また暫くお別れだね。来月は佐世保に来てね」
「ああ、元気でなあ」
和也は優しく唇を合わせて優希を抱きしめた。
そのとき、香織は二人の後ろから茶化すように、
「よお! お二人さん。見せ付けてくれるね」
二人は香織が居るのを忘れて、ラブシーンを演じていた。彼女の声で慌てて離れて、二人は少し照れていた。
「あっ、もう時間がないね。香織を、ちゃんと新大阪の駅まで送って上げてね。それでは、バイビー!」
優希は陽気に出発口に向って歩き出した。
和也と香織は並んで優希を見送っていた。
優希は時折二人の方に振り向いた。そして、出発口の前で最後の振り返りをした。
そのとき、香織は和也の腕を取って、優希に手を振った。
優希は面食らったように怒って、急いで走って戻ろうとした。
「ほら、乗り遅れるよ。あっは、冗談、冗談。むきにならないの」
香織は和也の腕を放して、舌を出して指さして大笑いをしている。また、悪戯だった。
場内には最終登場案内のアナウンスが流れていた。それを聞いた優希は少し膨れて、急いで出発口に消えた。
和也は香織と駐車場に向って急いで走っていた。彼女がそのまま飛行機で東京に帰れば、彼も楽だった。しかし、彼女は大の飛行機嫌いで、移動は何時も新幹線だった。時間にあまり余裕はない。二人は、車に乗り込んで鉄砲のように関空を飛び出した。
「ねぇ、大丈夫かしら。私の、のぞみは九時十八分よ。もう八時半だよね」
香織は心配そうに尋ねている。
「心配はいらない。この俺に任せろ。三十分もあれば楽勝だ。この車には翼があるのだ」
香織は後部座席からルームミラーで笑顔を和也に見せた。そして、またリズムを取ってスピードを楽しんでいる。彼女は優希に少し遠慮をして、空いている助手席には座らなかった。
和也は調子に乗って、光のような速さで湾岸線を滑空していた。しかし、何故か、そこは西宮だった。彼は湾岸線の走り易さにつられて、途中のジャンクションで道を間違えた。それに気づいた彼は、次のランプを下りて国道を交差点でUターンした。そして、また高速に乗った。
「ねぇ、どうしたの」
「いや、何でもない」
「ひょっとして、道を間違えたの」
「うむ、そうとも言うな」
和也は笑うしかなかった。
香織は頬を膨らせて、
「最低! もう九時だよ」
「ああ、大丈夫だ」
車は結局、十時少し前に新大阪の駅に着いた。念の為、二人は改札口まで足を運んだ。しかし、のぞみはもうなかった。人通りも殆どなく、がらんとしたホールに二人は呆然と立っている。
「もう、最悪の日ね。どうしてくれるの。何が、俺に任せろよ!」
香織は足を大きく踏み鳴らしている。
「済まん。どこかホテルを探そうか」
和也は頭を下げていた。
しかし、香織は眉間にシワを寄せて、
「ダメよ。朝から店に顔を出さないと不味いのよ」
「車で送るよ。俺もこれから車で帰るから。それで、勘弁してくれ」
「仕方がないけれど、そうさせてもらうわ。それなら、助手席に座らせてもらうわ。東京まで、荷物役はゴメンだからね。面白くなかったから、これからは、私が主役になって、憂さを晴らすわ。いいでしょう」
「ああ、特に問題はない」
和也はクールに返事をした。
車に戻ると、香織は助手席に座った。そして、悪戯を楽しむように両手を広げて、ダッシュボードをつかんで、頬を擦りつけていた。
それを見ていた和也は不思議そうに、
「おい、お前もそういう趣味なのか」
「うっふ、あの娘が、とても幸せそうだったから、こうして私の匂いをつけちゃうの」
香織は悪戯を味わうように言った。そして、バッグからD&Zのライトブルーの小瓶を取り出して、ダッシュボードと助手席にスプレーを振り掛けていた。大森林の爽やかな香りは消え去って、車内は地中海の夜のように甘く華麗な風で満ちていた。
和也は香織の行為をじっと見守っている。どことなく裕子がやっているように思えていた。その為に、彼は苦しい切なさで胸が一杯になっていた。
「何よ。じっと見つめて。ホテルで最初に会った時もそうだったよね。あっ、さては、私に惚れちゃったかな。私はOKだよ。今フリーだから」
香織は小悪魔な笑みを浮かべて和也の顔を覗いた。
「いや、ちょっと疲れて、ぼっとしていただけだ」
和也は慌てて目をそらしてエンジンを掛けた。
「そうだよね。あんなに可愛い優希が居るものね。でも、あの娘は何か少しむかつくのよね。マイペースで天然だから。それに、ちょっとからかうと、すぐむきになるしね。あっ、ごめんなさいね。でも、そんなところが、男心を擽るのかしら」
香織は右手を顎につけて少し首を傾げている。
和也は軽く聞き流して車を走らせた。
秋深まる駅の夜空には、見事な満月が輝いて、その下の赤い星は、不安そうに彼の車を見つめていた。
車は深夜の高速を順調に進んでいた。香織はシートを倒して、完全に眠っている。まるで、寝台列車に乗っている気分のようだった。
午前二時頃、車は浜名湖SAに着いた。駐車場には殆ど車はなく、和也は静かに車を止めた。ギアの後ろにあった缶コーヒを、彼は取り出して一息ついている。香織は、まだぐっすりと可愛い寝顔で夢の中に居た。
和也は右手を助手席の窓について身を乗り出した。そして、香織の顔の上で、じっくりとその目元を眺めていた。やはり、裕子だと彼は思った。カフェで楽しく過ごしていた良い頃を思い出して、胸の芯から熱く吹き出てくる何かを感じていた。
そのとき急に、香織が目を大きく見開いた。そして、小悪魔な笑みを浮かべた。彼女は両手で和也の首を押さえて唇を吸った。
和也も裕子の行為と錯覚して強く吸い返した。彼は我に返って、慌てて唇を離した。そして、どう取り繕うかと固まっていた。
「もう、三回目だよね。私のことを見つめていたのは。白状しなさいよ。惚れたのでしょう。それに、少しふざけて試してみただけなのに、舌まで入れられるとは思わなかったわ。もう、決定的だよね」
香織は鬼の首を取ったように追及している。
「いや、何というか。これはだなあ。済まん」
和也には言い訳が見つからなかった。
「ちょっと、済まんは、ないでしょう。こんなに身を乗り出しているから、こっちもその気になって始めたのに。貴方は女に恥をかかすの」
香織はかなり怒り出している。
「本当に、済まん。この通りだ」
和也は平謝りをするしかなかった。彼は頭を下げて、慌てて運転席に体を戻そうとした。そのとき、手に持っていた缶コーヒを、彼はギアにぶつけた。そして、その缶は香織のスカートの上に落ちて、その中身の全ては、スカートに染み込んだ。
「きゃ、何をするの。スカートが台無しじゃないの。それに、ショーツまで濡れたわ。貴方って、本当に最低ね」
香織は眉間にシワを寄せて和也を睨みつけている。
「あっ、済まん。わざとではない。ギアにちょっとぶつかった。本当に、済まん」
和也は唯ひたすら謝るだけだった。
「どうでも、良いけれど、早く着替えたいの。出て行ってよ」
香織は和也を手で追い払う仕草をしている。
しかし、和也は不思議そうに、
「ここでか」
「そうよ」
香織は口を尖がらせている。
「あっちに、トイレがあるぞ」
和也は優しく指をさした。
「こんな気持ちの悪い状態で、あんな所まで歩けっていうの。それに、あっちは人が居るでしょう。こんな見っとも無い格好を見られるのは嫌よ。ここなら、貴方を除けば人が居ないから丁度良いでしょう。それとも、ここで続きをする。下は全部脱ぐから、手間が省けるでしょう」
香織は小悪魔が誘うように意味深な笑いを浮かべている。
「いや、外に出て待っているよ。後ろを向いているから。外は寒いから早く頼むな」
和也は素直に車から降りた。
香織の着替えが終わって、車は浜名湖SAを出た。彼女は不機嫌そうな表情で、終始無言で黙っている。
和也は気まずい思いをしていた。空が明るみ始めた頃、車は用賀で高速を下りた。そして、246沿いのコンビニの前で止まった。
香織は、コンビニの隣のマンションが自宅だと指さしている。
「どうも、ご苦労さまでした。ありがとう。でも、スカートは弁償してね。高かったのだから。新しいのを買って、ポストに入れて置いてね」
香織は当然のように頼んでいた。
「ああ、分かった。本当に済まないことをした」
和也は再度平謝りをするしかなかった。
それを聞いた香織は、機嫌を直して笑顔で会釈して車を降りた。そして、マンションの入口へと消えた。
和也は香織に裕子の面影を感じて見送った。彼は、心の底からじわじわと何か熱いものが、また湧き出ていた。そして、彼は横浜の自宅に戻って、会社に向って歩いていた。
深まった秋の朝は少し寒く、冷たい風が和也の熱くなった心を冷却するように吹き抜けていた。

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しかし、車が高速に入ると、光の道が開けた。和也は、ぐんぐんとスピードを上げて、ツバメのように車の間をすり抜ける。
優希はシートベルトを両手でしっかりとつかんで、我慢して流れに身をまかせている。
香織は後部座席で陽気にリズムを取って体を揺らしている。そして、そのクルージングを楽しんでいた。
車は暫く進んで、その窓の外には大阪湾に浮かぶ巨大な空母のような関西空港が現れた。車は急いで連絡橋を渡って、ポートターミナルを横切った。そして、駐車場に飛び込んだ。
三人は車を降りて走っていた。そして、ターミナルビルのANAのカウンター前に滑り込んだ。それは、ぎりぎりの二十分前だった。
優希は両手で和也の手をつかんで寂しそうな目をして、
「和也、また暫くお別れだね。来月は佐世保に来てね」
「ああ、元気でなあ」
和也は優しく唇を合わせて優希を抱きしめた。
そのとき、香織は二人の後ろから茶化すように、
「よお! お二人さん。見せ付けてくれるね」
二人は香織が居るのを忘れて、ラブシーンを演じていた。彼女の声で慌てて離れて、二人は少し照れていた。
「あっ、もう時間がないね。香織を、ちゃんと新大阪の駅まで送って上げてね。それでは、バイビー!」
優希は陽気に出発口に向って歩き出した。
和也と香織は並んで優希を見送っていた。
優希は時折二人の方に振り向いた。そして、出発口の前で最後の振り返りをした。
そのとき、香織は和也の腕を取って、優希に手を振った。
優希は面食らったように怒って、急いで走って戻ろうとした。
「ほら、乗り遅れるよ。あっは、冗談、冗談。むきにならないの」
香織は和也の腕を放して、舌を出して指さして大笑いをしている。また、悪戯だった。
場内には最終登場案内のアナウンスが流れていた。それを聞いた優希は少し膨れて、急いで出発口に消えた。
和也は香織と駐車場に向って急いで走っていた。彼女がそのまま飛行機で東京に帰れば、彼も楽だった。しかし、彼女は大の飛行機嫌いで、移動は何時も新幹線だった。時間にあまり余裕はない。二人は、車に乗り込んで鉄砲のように関空を飛び出した。
「ねぇ、大丈夫かしら。私の、のぞみは九時十八分よ。もう八時半だよね」
香織は心配そうに尋ねている。
「心配はいらない。この俺に任せろ。三十分もあれば楽勝だ。この車には翼があるのだ」
香織は後部座席からルームミラーで笑顔を和也に見せた。そして、またリズムを取ってスピードを楽しんでいる。彼女は優希に少し遠慮をして、空いている助手席には座らなかった。
和也は調子に乗って、光のような速さで湾岸線を滑空していた。しかし、何故か、そこは西宮だった。彼は湾岸線の走り易さにつられて、途中のジャンクションで道を間違えた。それに気づいた彼は、次のランプを下りて国道を交差点でUターンした。そして、また高速に乗った。
「ねぇ、どうしたの」
「いや、何でもない」
「ひょっとして、道を間違えたの」
「うむ、そうとも言うな」
和也は笑うしかなかった。
香織は頬を膨らせて、
「最低! もう九時だよ」
「ああ、大丈夫だ」
車は結局、十時少し前に新大阪の駅に着いた。念の為、二人は改札口まで足を運んだ。しかし、のぞみはもうなかった。人通りも殆どなく、がらんとしたホールに二人は呆然と立っている。
「もう、最悪の日ね。どうしてくれるの。何が、俺に任せろよ!」
香織は足を大きく踏み鳴らしている。
「済まん。どこかホテルを探そうか」
和也は頭を下げていた。
しかし、香織は眉間にシワを寄せて、
「ダメよ。朝から店に顔を出さないと不味いのよ」
「車で送るよ。俺もこれから車で帰るから。それで、勘弁してくれ」
「仕方がないけれど、そうさせてもらうわ。それなら、助手席に座らせてもらうわ。東京まで、荷物役はゴメンだからね。面白くなかったから、これからは、私が主役になって、憂さを晴らすわ。いいでしょう」
「ああ、特に問題はない」
和也はクールに返事をした。
車に戻ると、香織は助手席に座った。そして、悪戯を楽しむように両手を広げて、ダッシュボードをつかんで、頬を擦りつけていた。
それを見ていた和也は不思議そうに、
「おい、お前もそういう趣味なのか」
「うっふ、あの娘が、とても幸せそうだったから、こうして私の匂いをつけちゃうの」
香織は悪戯を味わうように言った。そして、バッグからD&Zのライトブルーの小瓶を取り出して、ダッシュボードと助手席にスプレーを振り掛けていた。大森林の爽やかな香りは消え去って、車内は地中海の夜のように甘く華麗な風で満ちていた。
和也は香織の行為をじっと見守っている。どことなく裕子がやっているように思えていた。その為に、彼は苦しい切なさで胸が一杯になっていた。
「何よ。じっと見つめて。ホテルで最初に会った時もそうだったよね。あっ、さては、私に惚れちゃったかな。私はOKだよ。今フリーだから」
香織は小悪魔な笑みを浮かべて和也の顔を覗いた。
「いや、ちょっと疲れて、ぼっとしていただけだ」
和也は慌てて目をそらしてエンジンを掛けた。
「そうだよね。あんなに可愛い優希が居るものね。でも、あの娘は何か少しむかつくのよね。マイペースで天然だから。それに、ちょっとからかうと、すぐむきになるしね。あっ、ごめんなさいね。でも、そんなところが、男心を擽るのかしら」
香織は右手を顎につけて少し首を傾げている。
和也は軽く聞き流して車を走らせた。
秋深まる駅の夜空には、見事な満月が輝いて、その下の赤い星は、不安そうに彼の車を見つめていた。
車は深夜の高速を順調に進んでいた。香織はシートを倒して、完全に眠っている。まるで、寝台列車に乗っている気分のようだった。
午前二時頃、車は浜名湖SAに着いた。駐車場には殆ど車はなく、和也は静かに車を止めた。ギアの後ろにあった缶コーヒを、彼は取り出して一息ついている。香織は、まだぐっすりと可愛い寝顔で夢の中に居た。
和也は右手を助手席の窓について身を乗り出した。そして、香織の顔の上で、じっくりとその目元を眺めていた。やはり、裕子だと彼は思った。カフェで楽しく過ごしていた良い頃を思い出して、胸の芯から熱く吹き出てくる何かを感じていた。
そのとき急に、香織が目を大きく見開いた。そして、小悪魔な笑みを浮かべた。彼女は両手で和也の首を押さえて唇を吸った。
和也も裕子の行為と錯覚して強く吸い返した。彼は我に返って、慌てて唇を離した。そして、どう取り繕うかと固まっていた。
「もう、三回目だよね。私のことを見つめていたのは。白状しなさいよ。惚れたのでしょう。それに、少しふざけて試してみただけなのに、舌まで入れられるとは思わなかったわ。もう、決定的だよね」
香織は鬼の首を取ったように追及している。
「いや、何というか。これはだなあ。済まん」
和也には言い訳が見つからなかった。
「ちょっと、済まんは、ないでしょう。こんなに身を乗り出しているから、こっちもその気になって始めたのに。貴方は女に恥をかかすの」
香織はかなり怒り出している。
「本当に、済まん。この通りだ」
和也は平謝りをするしかなかった。彼は頭を下げて、慌てて運転席に体を戻そうとした。そのとき、手に持っていた缶コーヒを、彼はギアにぶつけた。そして、その缶は香織のスカートの上に落ちて、その中身の全ては、スカートに染み込んだ。
「きゃ、何をするの。スカートが台無しじゃないの。それに、ショーツまで濡れたわ。貴方って、本当に最低ね」
香織は眉間にシワを寄せて和也を睨みつけている。
「あっ、済まん。わざとではない。ギアにちょっとぶつかった。本当に、済まん」
和也は唯ひたすら謝るだけだった。
「どうでも、良いけれど、早く着替えたいの。出て行ってよ」
香織は和也を手で追い払う仕草をしている。
しかし、和也は不思議そうに、
「ここでか」
「そうよ」
香織は口を尖がらせている。
「あっちに、トイレがあるぞ」
和也は優しく指をさした。
「こんな気持ちの悪い状態で、あんな所まで歩けっていうの。それに、あっちは人が居るでしょう。こんな見っとも無い格好を見られるのは嫌よ。ここなら、貴方を除けば人が居ないから丁度良いでしょう。それとも、ここで続きをする。下は全部脱ぐから、手間が省けるでしょう」
香織は小悪魔が誘うように意味深な笑いを浮かべている。
「いや、外に出て待っているよ。後ろを向いているから。外は寒いから早く頼むな」
和也は素直に車から降りた。
香織の着替えが終わって、車は浜名湖SAを出た。彼女は不機嫌そうな表情で、終始無言で黙っている。
和也は気まずい思いをしていた。空が明るみ始めた頃、車は用賀で高速を下りた。そして、246沿いのコンビニの前で止まった。
香織は、コンビニの隣のマンションが自宅だと指さしている。
「どうも、ご苦労さまでした。ありがとう。でも、スカートは弁償してね。高かったのだから。新しいのを買って、ポストに入れて置いてね」
香織は当然のように頼んでいた。
「ああ、分かった。本当に済まないことをした」
和也は再度平謝りをするしかなかった。
それを聞いた香織は、機嫌を直して笑顔で会釈して車を降りた。そして、マンションの入口へと消えた。
和也は香織に裕子の面影を感じて見送った。彼は、心の底からじわじわと何か熱いものが、また湧き出ていた。そして、彼は横浜の自宅に戻って、会社に向って歩いていた。
深まった秋の朝は少し寒く、冷たい風が和也の熱くなった心を冷却するように吹き抜けていた。

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