1カラットの奇跡 第十話 ペンダントよ、青く光れ!(1)
師走の真夜中の冷たく澄んでいる空には、多くの星達が七色の光で輝いて赤い星を守っていた。
和也は自宅のマンションのベッドの中で夢を見ていた。彼は馬に乗って森の中を愉快に走り回っている。彼は暫く進んだ。そして、霧の奥に人影が立っていた。
その人影は和也の方に振り向いた。それは裕子だった。彼女は、薄っすらと笑みを浮かべて走り去った。
和也は慌てて馬に強くムチを入れた。そして、裕子を追いかけている。しかし、彼が追いかけても、追いかけても、二人の距離は縮まらなかった。
和也は気がついた。今度は青いオフロードバイクのタンデムシートに乗っていた。そのバイクを運転しているのは、赤い革ジャンを羽織った裕子だった。彼女の背中に和也はつかまっている。
そのバイクはカーブで大きくジャンプをした。そして、深い谷底へと落下した。
二人は抱き合って顔を見つめ合っていた。そして、何時までも落下している。
裕子は優しく微笑んでいた。そして、その顔は急に香織に変わっていた。
和也は布団を跳ね飛ばしてベッドの上で起き上がった。寝汗が彼の顔を流れて心臓は激しく鼓動を打っていた。そして、彼の全身には恐怖が溢れていた。
やはり、三百七十万は異様で和也は怖かった。そして、香織とのデートが裕子との思い出をリロードするように流れていることも、彼は奇妙に感じていた。
そして、香織の死というイメージが、それまでの流れから、和也の脳裏には容易に浮かんでいた。彼は、それは避けたかった。あのような辛い思いをするのは、二度としたくなかった。
和也は、もう香織に会うのは止めようと決心を固めた。それが、彼女にも良いことで、リロードも止まると思った。それに、彼女に愛情を抱いている訳でないことも、彼は心に確認した。何故なら、彼は裕子の面影を懐かしんでいただけだった。
そして、裕子を追いかけることは、和也が現実を拒否している証拠だった。不運と幸運は紙一重。心の持ち方で決まる。それを不運と感じて何時までも嘆いたままでは、永遠に幸運は訪れない。負けは負け。不運は不運と受け入れて、一旦終わらせることが、誰にでも必要なことだった。そうすれば、前を向いて、また歩き出せる。やがて、幸運にも巡り会える。それ故に、過去を向いたままでは、決して次の物語は始まらなかった。彼は、そう思っていた。
窓の外の夜空に、寂しそうに灯っている赤い星を、和也は眺めている。そして、それまでの優希の可愛らしい仕草を思い出していた。
和也は前に進む道も開けていることに気がついた。そして、何よりも、優希を幸せにすることが、彼の一番の使命だと思った。女を二人も不幸にする訳にはいかない。彼女を横浜に呼んで一緒に暮らそう。そうすれば、過去も断ち切って前に進めると、彼は澄み切った表情で考えていた。
クリスマスの前週の水曜日、和也は休暇を取って優希を東京に呼んだ。本当は、その翌週が一番のタイミングだった。しかし、クリスマスの週は稼ぎ時で、彼女は休みを取ることが出来なかった。そこで、一週早いクリスマスとなった。
華やかなデコレーションで飾られている銀座の街を、二人は緩やかな笑顔で腕を組んでいた。そして、人の流れに乗って歩いている。
優希は、D&Zの黒いコートにロングブーツを身に着けて、ビルを見上げて楽しんでいる。
そして、和也はアレマーニのスーツで決めて強い決意を心に抱いていた。
空には薄っすらと白いものが舞っている。一週早いホワイトクリスマスは、二人の未来を祝福するようだった。
夕方になって、二人はウィンドウショッピングを終えた。そして、寒さに震えて予約していたフレンチのレストランに入った。
その店内は、赤と黒の配色が印象的で、シックな雰囲気の中にオリエンタルな風情が交じり合っていた。その独特でオシャレな演出は、カップル客達を、ロマンチックな世界へと導いていた。
赤ワインで乾杯して、二人のディナーが始まった。繊細な銀が輝いている食器の光沢は、二人の空間をシルクのように包み込んでいた。柔らかくふんわりと口一杯に広がるコースの料理達は、どれもが絶妙な味わいで、二人の心を甘く溶かしている。そして、二人はにこやかに微笑み合って、その時間が長く続くようにと願った。
静かな曲と共に時は流れた。テーブルの上には、デザートのムースとコーヒが並んでいる。
和也は赤いリボンで飾られた小箱を、懐から取り出した。そして、何気なく、優希の前に置いた。
「わあ、嬉しい。クリスマスプレゼントだね」
優希は瞳を躍らせて優しく微笑んだ。
「いや、違う。もっと、凄い物だ。早く開けてみろ」
優希は丁寧に包みを開けた。そして、彼女の前には濃紺の指輪の箱が姿を現した。彼女は息を止めて蓋をゆっくり開けた。その中には、1カラットのダイヤが眩いばかりに輝いていた。彼女は、顔一面の笑顔で大きく口を開いていた。そして、その指輪を嬉しそうに見つめて、指にはめようとした。
「あっ、待て。今は、ダメだ。正月、佐世保へ行ったときだ。もし、俺と横浜で暮らす気があるのなら、指にはめて見せてくれ。その気がないのなら、箱ごと玄関の前に置いておけ。それを持って静かに帰る」
和也はクールに決めた。
「分かったわ。お楽しみは、お正月だね」
優希は満身の笑みを、まだ、顔一杯に広げていた。
和也は自宅のマンションのベッドの中で夢を見ていた。彼は馬に乗って森の中を愉快に走り回っている。彼は暫く進んだ。そして、霧の奥に人影が立っていた。
その人影は和也の方に振り向いた。それは裕子だった。彼女は、薄っすらと笑みを浮かべて走り去った。
和也は慌てて馬に強くムチを入れた。そして、裕子を追いかけている。しかし、彼が追いかけても、追いかけても、二人の距離は縮まらなかった。
和也は気がついた。今度は青いオフロードバイクのタンデムシートに乗っていた。そのバイクを運転しているのは、赤い革ジャンを羽織った裕子だった。彼女の背中に和也はつかまっている。
そのバイクはカーブで大きくジャンプをした。そして、深い谷底へと落下した。
二人は抱き合って顔を見つめ合っていた。そして、何時までも落下している。
裕子は優しく微笑んでいた。そして、その顔は急に香織に変わっていた。
和也は布団を跳ね飛ばしてベッドの上で起き上がった。寝汗が彼の顔を流れて心臓は激しく鼓動を打っていた。そして、彼の全身には恐怖が溢れていた。
やはり、三百七十万は異様で和也は怖かった。そして、香織とのデートが裕子との思い出をリロードするように流れていることも、彼は奇妙に感じていた。
そして、香織の死というイメージが、それまでの流れから、和也の脳裏には容易に浮かんでいた。彼は、それは避けたかった。あのような辛い思いをするのは、二度としたくなかった。
和也は、もう香織に会うのは止めようと決心を固めた。それが、彼女にも良いことで、リロードも止まると思った。それに、彼女に愛情を抱いている訳でないことも、彼は心に確認した。何故なら、彼は裕子の面影を懐かしんでいただけだった。
そして、裕子を追いかけることは、和也が現実を拒否している証拠だった。不運と幸運は紙一重。心の持ち方で決まる。それを不運と感じて何時までも嘆いたままでは、永遠に幸運は訪れない。負けは負け。不運は不運と受け入れて、一旦終わらせることが、誰にでも必要なことだった。そうすれば、前を向いて、また歩き出せる。やがて、幸運にも巡り会える。それ故に、過去を向いたままでは、決して次の物語は始まらなかった。彼は、そう思っていた。
窓の外の夜空に、寂しそうに灯っている赤い星を、和也は眺めている。そして、それまでの優希の可愛らしい仕草を思い出していた。
和也は前に進む道も開けていることに気がついた。そして、何よりも、優希を幸せにすることが、彼の一番の使命だと思った。女を二人も不幸にする訳にはいかない。彼女を横浜に呼んで一緒に暮らそう。そうすれば、過去も断ち切って前に進めると、彼は澄み切った表情で考えていた。
クリスマスの前週の水曜日、和也は休暇を取って優希を東京に呼んだ。本当は、その翌週が一番のタイミングだった。しかし、クリスマスの週は稼ぎ時で、彼女は休みを取ることが出来なかった。そこで、一週早いクリスマスとなった。
華やかなデコレーションで飾られている銀座の街を、二人は緩やかな笑顔で腕を組んでいた。そして、人の流れに乗って歩いている。
優希は、D&Zの黒いコートにロングブーツを身に着けて、ビルを見上げて楽しんでいる。
そして、和也はアレマーニのスーツで決めて強い決意を心に抱いていた。
空には薄っすらと白いものが舞っている。一週早いホワイトクリスマスは、二人の未来を祝福するようだった。
夕方になって、二人はウィンドウショッピングを終えた。そして、寒さに震えて予約していたフレンチのレストランに入った。
その店内は、赤と黒の配色が印象的で、シックな雰囲気の中にオリエンタルな風情が交じり合っていた。その独特でオシャレな演出は、カップル客達を、ロマンチックな世界へと導いていた。
赤ワインで乾杯して、二人のディナーが始まった。繊細な銀が輝いている食器の光沢は、二人の空間をシルクのように包み込んでいた。柔らかくふんわりと口一杯に広がるコースの料理達は、どれもが絶妙な味わいで、二人の心を甘く溶かしている。そして、二人はにこやかに微笑み合って、その時間が長く続くようにと願った。
静かな曲と共に時は流れた。テーブルの上には、デザートのムースとコーヒが並んでいる。
和也は赤いリボンで飾られた小箱を、懐から取り出した。そして、何気なく、優希の前に置いた。
「わあ、嬉しい。クリスマスプレゼントだね」
優希は瞳を躍らせて優しく微笑んだ。
「いや、違う。もっと、凄い物だ。早く開けてみろ」
優希は丁寧に包みを開けた。そして、彼女の前には濃紺の指輪の箱が姿を現した。彼女は息を止めて蓋をゆっくり開けた。その中には、1カラットのダイヤが眩いばかりに輝いていた。彼女は、顔一面の笑顔で大きく口を開いていた。そして、その指輪を嬉しそうに見つめて、指にはめようとした。
「あっ、待て。今は、ダメだ。正月、佐世保へ行ったときだ。もし、俺と横浜で暮らす気があるのなら、指にはめて見せてくれ。その気がないのなら、箱ごと玄関の前に置いておけ。それを持って静かに帰る」
和也はクールに決めた。
「分かったわ。お楽しみは、お正月だね」
優希は満身の笑みを、まだ、顔一杯に広げていた。
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