ルビーの気まぐれ 第一話 魅惑のルビー(1)
白い光にさらされて輝いている六条の煌きは、紺碧の夜空に浮かぶ星のようだった。淡い薄ピンクの半透明な光明も心を手招きされているようで、壮大な宇宙の中に吸い込まれていく。四キャラットほどの、大きな楕円の優しい丸みを帯びたオーバルカボションのカットは、恋で疲れた身を癒してくれる。
目の前がぱっと真っ赤になる。全身がぬくもりで包まれていく。心は踊りだす。左の薬指に赤い糸が絡みつく。あの人の顔が浮かんでキタ――♪ 頬がゆるみ、全身が浮き浮きする。
伊藤美奈子は両手をショーケースの上に広げ、スタールビーの美しさに目を見開き、白銀の筋のような光に心を揺らした。ネイルアートでサファイアのように飾られた細い指に、主役のアクセサリーとして欲しい一品だった。美奈子が身に着けている春物のスーツは、白地にピンクのDで始まるロゴ文字を、網目のように散りばめたトロッター柄だった。スタールビーの緩やかな光彩は絡み合うように映えることだろう。
茶髪の長い髪をかき上げる仕草の中で、星のような閃光を放つルビーをあの人に浴びせたい。どんな若い娘が流す甘い香りよりも効果があるだろうと、美奈子は無意識に店内のテンポ良いBGMに合わせ、その場で小さく体を揺らして踊り出した。
そんな浮き浮きとした気分も、ルビーの下に置いてある白い札を見ると崩れ去った。百五十万円也。踊りを止め、溜息が大きく一つ漏れる。念の為、ゼロをもう一度数えてみる。やはり、五つだ。また、溜息が漏れ、美奈子は肩を大きく落とした。
美奈子はWEBサイトのラフ絵を、クライアントに見せた帰り道、新宿のデパートの宝飾店に立ち寄った。人込みの流れから外れ、小柄で細身の体を棒立ちにしていた。
「ルビーをお求めですか。そのルビーに興味をお持ちとは、お目が高いですね」
美奈子はびっくりして顔を上げた。中年の女性店員が大きな笑みで口を開けて、牙のような歯を光らせている。
(ヤバッ、ロックオンされたかしら。話をすると買わされそう。今日も見にきただけなのに。そんな高いものが、すぐに買える訳がないからね・・・・・・)
固まった美奈子を無視して店員は話を続ける。
「ルビーはサファイアと同じ種類の鉱物なのですよ。わずか1%の不純物がまじったものだけがルビーと呼ばれるので、とっても稀少な存在なのです」
穏やかな目つきで、店員は熱心に語っていた。
美奈子の体の硬直は氷が緩むように少しほぐれた。
「ルビーの中でも、六条のラインを放つものがスタールビーです。しかも、全てのラインが中心で交差するものは非常にめずらしく、その値段でもけっして高いものではありませんよ」
優しく微笑んで、店員は美奈子の顔を覗いている。
美奈子はだんだんと身を前に乗り出し、両手を握り締めた。
「お客さまのような二十代前半の娘さんにも、きっとお似合いですよ。意中の彼氏の心も吸い寄せることでしょうね。どうですか、その細くてお綺麗な指にはめてみますか?」
美奈子は店員の言葉に胸を躍らせ、うるうると瞳を輝かせている。
(折角だから、はめてみたい。それよりも、思い切って買ってしまおうか。きっと、あの人も吸い寄せることが出来るはず。でも、支払いはどうしようかな。今月のお家賃も払っていないし・・・・・・)
顔を顰めた美奈子は、無意識に辺りをキョロキョロした。
(あれっ、あの人だ! なんでこんな所にいるのかな?)
黒いブレザーに黒の皮ズボン。階段を下りていく男の後ろ姿が目に入った。美奈子はあわてて走り出し、男を追いかけた。
目の前がぱっと真っ赤になる。全身がぬくもりで包まれていく。心は踊りだす。左の薬指に赤い糸が絡みつく。あの人の顔が浮かんでキタ――♪ 頬がゆるみ、全身が浮き浮きする。
伊藤美奈子は両手をショーケースの上に広げ、スタールビーの美しさに目を見開き、白銀の筋のような光に心を揺らした。ネイルアートでサファイアのように飾られた細い指に、主役のアクセサリーとして欲しい一品だった。美奈子が身に着けている春物のスーツは、白地にピンクのDで始まるロゴ文字を、網目のように散りばめたトロッター柄だった。スタールビーの緩やかな光彩は絡み合うように映えることだろう。
茶髪の長い髪をかき上げる仕草の中で、星のような閃光を放つルビーをあの人に浴びせたい。どんな若い娘が流す甘い香りよりも効果があるだろうと、美奈子は無意識に店内のテンポ良いBGMに合わせ、その場で小さく体を揺らして踊り出した。
そんな浮き浮きとした気分も、ルビーの下に置いてある白い札を見ると崩れ去った。百五十万円也。踊りを止め、溜息が大きく一つ漏れる。念の為、ゼロをもう一度数えてみる。やはり、五つだ。また、溜息が漏れ、美奈子は肩を大きく落とした。
美奈子はWEBサイトのラフ絵を、クライアントに見せた帰り道、新宿のデパートの宝飾店に立ち寄った。人込みの流れから外れ、小柄で細身の体を棒立ちにしていた。
「ルビーをお求めですか。そのルビーに興味をお持ちとは、お目が高いですね」
美奈子はびっくりして顔を上げた。中年の女性店員が大きな笑みで口を開けて、牙のような歯を光らせている。
(ヤバッ、ロックオンされたかしら。話をすると買わされそう。今日も見にきただけなのに。そんな高いものが、すぐに買える訳がないからね・・・・・・)
固まった美奈子を無視して店員は話を続ける。
「ルビーはサファイアと同じ種類の鉱物なのですよ。わずか1%の不純物がまじったものだけがルビーと呼ばれるので、とっても稀少な存在なのです」
穏やかな目つきで、店員は熱心に語っていた。
美奈子の体の硬直は氷が緩むように少しほぐれた。
「ルビーの中でも、六条のラインを放つものがスタールビーです。しかも、全てのラインが中心で交差するものは非常にめずらしく、その値段でもけっして高いものではありませんよ」
優しく微笑んで、店員は美奈子の顔を覗いている。
美奈子はだんだんと身を前に乗り出し、両手を握り締めた。
「お客さまのような二十代前半の娘さんにも、きっとお似合いですよ。意中の彼氏の心も吸い寄せることでしょうね。どうですか、その細くてお綺麗な指にはめてみますか?」
美奈子は店員の言葉に胸を躍らせ、うるうると瞳を輝かせている。
(折角だから、はめてみたい。それよりも、思い切って買ってしまおうか。きっと、あの人も吸い寄せることが出来るはず。でも、支払いはどうしようかな。今月のお家賃も払っていないし・・・・・・)
顔を顰めた美奈子は、無意識に辺りをキョロキョロした。
(あれっ、あの人だ! なんでこんな所にいるのかな?)
黒いブレザーに黒の皮ズボン。階段を下りていく男の後ろ姿が目に入った。美奈子はあわてて走り出し、男を追いかけた。
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No title
不思議な文章ですね。いや、もちろん良い意味で。かなり独創的で、創意工夫がなされている本当に愛情を感じる文章ですね。
どうも初めましてです。
場末でファンタジー小説を書いているLandMです。よろしくお願いします。
どうも初めましてです。
場末でファンタジー小説を書いているLandMです。よろしくお願いします。
Re: No title
LandMさん、コメントありがとう♪
不思議な文章、いろんな人によくいわれますよ(^0^)/
不思議さを物語りのコンセプトにしているから、そういう文章になるのかな?
こちらこそ、よろしくお願いします。
不思議な文章、いろんな人によくいわれますよ(^0^)/
不思議さを物語りのコンセプトにしているから、そういう文章になるのかな?
こちらこそ、よろしくお願いします。