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ルビーの気まぐれ 第一話 魅惑のルビー(8)

 その日の夕方、美奈子は新宿のデパートの前にいた。昼間の悲惨な出来事を忘れる為に、ルビーを見た帰りだった。服装もライトブラックのデニムミニと、ピンクのスプリングセータにスニカーで、気軽な格好に替えていた。
 シャワーでさっぱりとした体に抜ける夕暮れの風は、嫌な記憶も洗い流すように美奈子の心の傷を静かに癒していた。スタールビーに力を貰った美奈子は浮き浮きと顔を上げ、人込みの中を歩き出した。
 前日の映画の看板が美奈子の目に入った。美奈子は反射的に携帯電話を開き、時計を見る。十五時開始の部がちょうど終わった頃だった。見終わった客の群れが映画館の正面から洪水のように流れ出ていた。
 人の流れは美奈子から遠ざかるように駅の方に向っている。その中で、メッシュの茶髪でショートの渚の頭を見つけた。大柄な渚の体は後ろからでも、すぐに見分けがつく。
(渚のヤツ、本当に人のチケットで映画を見たのね!)
 美奈子は少し口を開け、むっとした。胸も熱くなった。後ろから捕まえ、スイーツでもおごらせようかと思った。でも、ふと見ると、渚の右側には小柄な彼氏がいた。子犬を散歩にでも連れ歩くように手を繋いでいる。渚の手の振りもどことなく弾んでいて、幸せに満ち溢れた波動で周りの空気を揺らしていた。その振動が風となり、美奈子の頬を軽く撫で抜けた。
 美奈子は笑みを零した。なんとなく胸も穏やかになった。もう、チケットのことは許してあげようと思った。
(渚のように手を繋いで、私も早くあの人と歩きたいな)
頬を赤らめながら、美奈子は空を見上げていた。ふと我に返り、気づいたら渚たちの姿はもう消えていた。

 美奈子は映画館から少し進み、狭い路地に入った。赤レンガの建物の古い木のドアを押し開く。中は薄暗かった。入口から六畳ほどの空間が広がっている。数人の若い女性が丸い木の椅子に腰を掛け、順番を待っていた。奥には入口があり、黒いカーテンが下がっている。美奈子は空いている椅子に腰を下ろした。
 一時間が経過し、漸く美奈子の番になった。美奈子は立ち上がり、カーテンをくぐり抜けた。十畳ほどの部屋も薄暗かった。部屋の奥には机があり、両サイドの床には蝋燭立てが置かれ、炎が怪しく揺らめいていた。
 机には黒いシルクのローブを身に纏った老婆が座っており、三角帽の下でシワだらけの顔を蝋燭の炎で揺らしていた。ティッシュを配っていた老婆のようだった。
 美奈子は辺りをキョロキョロとしながら肩を縮め、机の前の丸椅子に座った。老婆に向かい話し出そうとした。
「あっ、お嬢ちゃん。そのまま、黙っておるのじゃ」
 目がつぶれるくらい微笑んだ老婆は右手を前に出し、手の平を美奈子の顔の前に広げた。老婆は目を大きく見開いて美奈子の顔をジロジロと見ていた。
 美奈子は老婆から目を伏せるように下を向き、体は無意識に硬くなった。
「恋をしておるようじゃね。しかも、まだ心に秘めたまま」
 ゆっくり顔を上げた美奈子は、老婆を大きな瞳で見つめた。頬を染めながら軽くうなずく。
「いいじゃろう。その恋の行方を占ってみようかの」
 老婆は楽しそうに微笑みを浮かべ、机の引き出しから二十二枚のタロットカードを取り出した。机の上の紫の布の上に裏向きで円を描くように広げ始める。カードは青地で銀色の大きな星の印がついていた。
「相手のことを心に強く念じながら、両手でカードを良くまぜるのじゃ」
 美奈子は川村が熱心にパソコンを見つめて仕事をしている姿を思い出した。頬を伸ばし、胸をときめかせながらカードをこねるように大きくまぜ始めた。三十秒後、美奈子は両手を止め、膝の上に置いた。
 老婆は手際よくカードを山にまとめ、左手で握った。上から七枚目のカードを裏向きに、美奈子に向かって左側に置いた。次の七枚目のカードを右側に置き、さらに七枚目のカードを老婆の手前に置いた。老婆は残りのカードを扇状に広げ、美奈子に裏を向けて前に差し出した。
「さあ、一枚選びなさい。お嬢ちゃんの手前に置くのじゃ」
 左端のカードを引いた美奈子は、老婆から指示された場所にカードを置いた。四枚のカードは菱形状に並んだ。
 老婆は美奈子に向かって左側のカードを表にした。
「このカードは過去の状態を表すものじゃ。世界のカードが逆位置か。何か、彼にアプローチをして失敗に終わったのじゃろ」
 顔を苦めた美奈子は軽くうなずいた。
 老婆は右側のカードを開いた。
「これは現在の状態じゃ。月が逆位置。はて、何か好転の兆しがあるのじゃろうか」
 首を傾げた美奈子は心を揺らした。
 老婆は手前のカードを開けた。
「これが未来の姿じゃ。おっ、恋人が正位置。調和じゃの。ほほお、お嬢ちゃんの努力次第では良い結果となるようじゃ」
 目を大きくした美奈子は心が躍り出した。
 老婆は最後の一枚を引っくり返した。
「そうなる為のキーワードじゃ。むむっ、女帝が逆位置か。嫉妬に気をつけなさいと出ているのう」
 美奈子は目を丸くし、老婆を見つめた。
「分からんか、ルビーじゃよ。それを身につければ良いのじゃ。ルビーは昔から嫉妬や愛の疑念をはらすと言われておる。恋のお守りじゃの」
 にこやかに、老婆は笑っている。
 美奈子はルビーと聞き、瞳を潤ませながら大きくうなずいた。
 すると、老婆は引き出しから紺色の指輪ケースを取り出し、蓋を開けて美奈子に見せた。そこには、四キャラットのスタールビーが六条の輝きを揺らしていた。
「ワシのところはな、ロイヤル宝石と提携しておる。だから、ほんまもんじゃ。しかも、ミャンマー産なのじゃ。これを買いなされ」
「おいくらなのですか?」
「百万じゃ。デパートだと、百五十万はするじゃろう」
「そんなお金はないし・・・・・・」
「ロイヤル信販とも提携しておるのじゃ。だから、ローンでも大丈夫じゃよ」
「でも、お給料安いからな・・・・・・」
「このルビーはのお、不思議な力があるのじゃよ。ある角度から照らすと、ほら、このようにレーザーのような光が出るのじゃ。これを彼氏の顔に当ててみると、あら不思議。彼氏からアプローチしてくるようになるのじゃ。残念じゃのう」
「えっ、本当ですか?」
「本当じゃよ。しかし、乱発はいかん。もし、こちらから断ると、その彼氏には途轍もない災いが訪れるからのう」
「断らなければいいのでしょう。折角、向こうから誘って来たのに、そんなことはしないわ」
「それじゃ、買うかのう」
「凄く欲しいけれど、やっぱり無理です。それに、その力も話だけでは信用できないかも・・・・・・」
「大たわけ者が! 神秘的なルビーの力を疑うとは、お前さんは愚か者じゃ」
 老婆は急に鬼のような目で美奈子を睨めつけた。
 反射的に身を縮めた美奈子は、目をそらすように下を向いた。
「良いじゃろう。少しだけ、ルビーの力を見せてやろうかの」
 にっこり微笑んだ老婆は二十二枚のカードをまとめ、トランプのように切り出した。裏向きのカードを横一列に華麗な手つきで右手を振って並べた。
「好きなカードを一枚引くのじゃ。そして、じっくりとそれを眺めなされ」
 美奈子は真中辺りのカードを一枚引いた。表の絵柄が老婆に見えないように、両手で隠しながら見つめた。そのカードは審判の絵柄だった。
 美奈子が絵柄を見ている間に、老婆は手早く残りのカードを山に集めた。両手でつかみ、腹の辺りに両手を引いて美奈子が見終わるのを待っていた。
「絵柄を覚えたら、カードを山に戻しなさい」
 右手に山を持ち替えた老婆は、美奈子の前に山を差し出した。
 美奈子は静かに山の一番上にカードを戻した。
 マジシャンのような手つきで、老婆はカードを切り始めた。今度は、表向きに横一列に並べた。ゆっくりと蝋燭を引き寄せた老婆は、その揺らめいている明かりでルビーを照らした。
 すると、ルビーから一筋の赤い光線が出て左端の棍棒のナイトのカードを照らした。光線は静かに隣の剣のクイーンに移動した。光線はどんどん進み、真中辺の聖杯のキングを照らしている。そして、隣の審判のカードで止まった。
「このカードじゃな。お前さんが引いたのは」
 口を大きく開きながら、美奈子は目を白黒させた。
「凄い! 力は本当なのね。ローンでお願いします。でも、五十回払にして下さい」
「ほほっ、五十回でも、百回でも、好きな回数にしなされ。賢い娘じゃのう。ありがとうさんじゃ」
 ローンの手続きを済ませた美奈子はルビーを受け取った。全身で踊りながらルビーを右手の薬指にはめてみた。目が大きく輝く。胸一杯に喜びが広がり、顔をほころばせた。
 店を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。でも、美奈子の頭の中は太陽のように降りそそぐ光で満ち溢れている。夜空の三日月も美奈子の体を優しく包み込むように笑っていた。

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Keyword : 小説 恋愛 ルビー

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