スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ルビーの気まぐれ 第二話 赤い糸の悪戯(2)

 会社に着いた美奈子は、肩で風を切りながら部屋に飛び込んだ。でも、まだ出社している人は少なかった。川村と直樹の姿は見えない。肩を落としながら、美奈子は背中を丸めた。
「美奈子! どうしたのだ。雨でも降りそうだな。いや、雪だ。この時間に現われたのだから、何が降っても可笑しくはない」
 壁際の黒い机で新聞を広げていたプロデューサーが、目を丸くしながら大きな声を出した。
 美奈子は少しむっとした。朝からスポーツ新聞を広げているようなオヤジには言われたくなかった。しかも、『女性騎手落馬で死亡』と、大きな字で書かれているので、出鼻をくじかれたようで縁起が悪かった。
 オヤジを睨めつけながら、美奈子は両足を大きく開き、胸をつんと出した。
「残念ですね。外は完璧な晴天です。それに、四月に雪が降るわけがありません。先週OKを頂いたホテルの案件の制作を始めるのです。だから、いつもより早く出社したのです」
「そうか。やっと、やる気を出してくれたのだな」
「お言葉ですけれど、やる気はいつも百二十パーセントです!」
「まあまあ、冗談なのだから、そうむきになるな」
「嫌です! ちゃんと、私のやる気を査定して下さい!」
「分かった分かった。やる気より、まず結果を出すことだ。査定はそれが全てだから、やる気をうまく使ってがんばってくれ」
 自然と口が止まった美奈子は大きく溜息をついた。もう少し言い方があるはずと頬をつり上げた。
 もう、やってられない! 嘘でも、「査定を上げてやる」の一言があれば、簡単に乗り気になる。でも、脂ぎったオヤジと口論をする為に、わざわざ早く来たのではない。一連のローズ作戦の遂行の為だ。
 そう思った美奈子は、顔をぷいっと反対側に向け、自分の席に歩き出した。気持ちを落ちつかせ、静かに腰を下ろした。パソコンの電源を入れ、メールのチェックを始めた。
 すると、一件の着信があった。ホテルのクライアントからだ。
『伊藤様、レッドスターホテルの星野です。先日のラフ絵の件、一点修正をお願いします。カップルディナーコースの料金は三千円です。念の為、他の料金一覧もエクセルファイルにて添付します。尚、ZIP形式で圧縮していますので、お手数ですが解凍して参照願います』
 メールを読んだ美奈子は愕然とした。直樹の勝ち誇った顔が目に浮かぶ。けれども、仕方がない。メールを軽くクリックし、直樹に転送するしかなかった。あまり面白くないから、早く忘れようと、ブックマークをしているスイーツのWEBページを開き、美奈子は頭を切り替えた。

 壁際に掛かっている茶色の時計は、九時五分前をさしていた。大部分の社員は席に着いている。黒いブレザーを着た川村が部屋に入ってきた。やつれた表情で、川村はゆっくりとオヤジに一礼をした。
 オヤジは広げていたスポーツ新聞を罰が悪そうに慌てて丸め、
「今日くらい休め」と、言っていた。
 川村は、「仕事をしていた方が気楽だから」と、作り笑顔で微笑み、静かに席まで歩いた。ブレザーを窓際のハンガーに掛け、寂しそうに空を見ながら腰を下ろした。
 美奈子は川村の一連の動きをじっと見つめながら、入口から窓際までその姿を目で追いかけた。元気がなさそうなのが、ちょっと心配だった。励まそうと、笑いながら小さく手を振る。でも、川村は視線を返してはくれなかった。
(もう少しの辛抱よ。レッドローズ作戦を実行すれば、振り向いてくれるはず。それには、まずトライアルローズ作戦。何で肝心なときに、直樹は早く来ないのかしら。本当に使えないヤツだわ)
 美奈子がそう思っていると、始業の九時のチャイムが部屋中に響き渡った。出社している社員全員が、ごそごそと立ち上がり始めた。朝礼の為だった。プロデューサーもゆっくりと立ち上がった。
 そのとき、息を切らして直樹が部屋に飛び込んできた。皆の視線が直樹に集まった。
「村田! 遅い。とっくに始まっているぞ!」
 プロデューサーは雷のような声で叫んだ。鬼のような形相で直樹を睨めつけている。
「申し訳ありません。工事で道を迂回して来ましたから」
「明日からは早く家を出るように気をつけること。査定を下げておくから、早く席へ行きなさい!」
 直樹は苦虫を潰したような顔をして歩き出した。美奈子の傍を通り抜けると、美奈子の向かいの席に鞄を放り投げた。下を向いて自分の席の前に立った。
「諸君、お早う。期が始まったばかりなのに、弛んでいるやつがおる。皆も既に承知だが、先期は売上目標が未達だった。レイアウトのずれ等の仕上がりに関するクレームで、定期更新の案件を何本か切られた為だ。仕上げには細心の注意を払って取り組んでほしい」
 プロデューサーは大きな声で話している。プロデューサーの視線が直樹から美奈子へ移動した。
 美奈子はぎくっとし、目をそらした。冷や汗が顔の脇を流れ抜ける。切られたうちの一本は美奈子の担当だった。
「連絡事項だが、ネットスカイというコンピュータウィルスが流行っている。これに感染し、当社のお客様にウィルスメールを送ったら、信用問題に発展する。くれぐれも、PIFやZIPの拡張子がついた添付ファイルつきのメールは開かずに削除すること」
 皆は静かに腰を下ろした。パソコンのマウスのクリック音が和音を奏でるように流れ始めた。

ネット小説ランキングに投票 恋愛ファンタジー小説サーチ オンライン小説検索・小説の匣へ
スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

Keyword : 小説 恋愛 ルビー

コメントの投稿

Secret

プロフィール

夢野広志(むのひろし)

Author:夢野広志(むのひろし)
小説の夢見へようこそ♪
オリジナルの恋愛小説を書いています。
不思議な宝石の物語を掲載中です。

目次
リンク
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

RSSリンクの表示
ランキング
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。