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ルビーの気まぐれ 第二話 赤い糸の悪戯(8)

 新宿周辺の甲州街道は車でごった返していた。路駐の帯も長く、所々で二重駐車の出っ張りもあった。バイクでも車の間を抜けるのは容易ではなかった。
 直樹のバイクは素直に車列の中に溶け込んでいた。どうにもこうにも進まない。
 タンデムシートに座っている美奈子は、かなりむっとした。どこが、気持ちが良いのだろうと。周りのビルからの無数の色のネオンの光が目を回す。星の光も見えない。騒音が喧しく、車の排気ガスも多量に吸った。頭にかぶった赤いヘルメットも重たい。だんだんと気分が悪くなってきた。
 四谷辺りまで進むと、バイクも本来の機動性を発揮し始めた。車の間をあめんぼのようにスイスイと走り抜ける。外堀の水面に触れた風も排気ガスの匂いを洗い流してくれた。
 バイクは堀沿いに進み、皇居前広場の辺りを走っている。月明かりに照らされた堀に浮かぶ大きな白鳥が、羽を広げながらオレンジ色の小さな口ばしで何か合図を送っている。
 美奈子は軽く右手を上げ、目を零し微笑んだ。赤いヘルメットも軽くなり、心が和らいだ。
 バイクは八重洲を抜け、ライトアップされてコバルトブルーに輝く大きな永代橋の手前に差し掛かった。夢の国への架け橋のように、星少ない夜空をバックに浮かび上がっている。
 美奈子は少し口を開け、頬を伸ばしながら青い光の風に胸を心地良く揺すられた。まるで映画のヒロインにでもなったような気分だった。無意識のうちに、直樹の背中にヘルメット越から頬をすり寄せる。何故か、川村と同じ香りがした。不思議な光の幻惑なのだろうか。いや、直樹が使っているコロンが川村と同じ系統だからだ。
 バイクが有明を通り過ぎると、濃紺の布に小粒の宝石を散りばめたような光の世界が広がった。お台場の万華鏡のような輝きだった。パレットタウンの大観覧車は大きなフルーツパイのようで、カラフルな一つ一つのフルーツが白い生クリームに浮かびながら、無数の煌きを放っていた。
 直樹は海浜公園まで走り、バイクを止めた。眼前には、七色に揺れるレインボーブリッジが紺碧の夜空に浮かんでいた。浜辺の波は静かで、周りの光が水面を優しく撫でているようだった。
 二人は浜辺をゆっくりと歩き出した。
 はしゃぎ気味に、美奈子は心を躍らせていた。直樹の両手を取りながら顔を覗き込んだ。
「ねえねえ、この場所は映画に出てきた場所だわ。和也と優希がダンスをしながらファーストキスをしたのよね。ちょうど、時刻もこれくらいだったかしら」
「そうですか。途中で寝てしまったので、分かりませんよ」
 頬をつりながら、直樹は返事をしていた。
 美奈子は口を窄め、ぷうっと頬を大きく膨らませた。
「もう、ロマンチックの欠片もないのね」
「天文学の欠片ならありますよ。カシオペヤのWの左上の少し離れたところに赤い星があります。あれは火星です。多分、和也が優希にあげた星です。映画では優希星と名づけられましたね。ちなみに、赤い星の少し右下の黄色い星が金星です。映画には出てきませんでしたが」
少し笑いながら、直樹は静かに右手で夜空を指していた。
 美奈子は夜空を見上げ、赤い星と黄色い星を眺めた。目を大きくし、にこやかな表情を広げながら直樹の顔を見た。
「へえ~。直樹くんって、意外と博学なのね。少し見直したかな。それより、金星がまだ残っているのね。ねえ、直樹くん。あれを私に頂戴。美奈子星と名づけるから」
「あれは僕の持ち物ではありませんよ。伊藤さんは本当に面白い人ですね」
 思わず噴出した直樹は、腹を抱えていた。
 美奈子は頬を張り、強い目つきで直樹の顔に迫った。
「優希は火星を貰ったわ。だから、私は金星を貰うの。それに映画でも言っていたじゃない。二人だけの秘密なら、食べて消さない限り誰も文句を言わないって」
「はいはい、分かりました。あげますから好きにして下さい」
 もう勘弁してくれと、直樹は呆れ果てた表情をしていた。
 美奈子は目を細め、首を傾げた。
「う~ん。何か、心がこもっていないのよね。このシーンはダンスが終わった後にもう一度だわ。それより、ちょっと踊りましょう」
「えっ、マジですか?」
 直樹は目が点になっていた。
 真剣な表情で、美奈子は直樹を睨んだ。
「当たり前でしょう。ここまで来たら、踊らない訳にはいかないわ」
「何か、ガキのようではありませんか?」
 直樹は疑問符を目に浮かべて美奈子を睨み返していた。
 一歩前に踏み込んだ美奈子は、胸をつんと出した。
「いいの、踊るの!」
 美奈子は両手を強引に直樹の首に掛けた。チークのステップを軽く踏み始め、左右に体を揺らし、踊り出した。
 直樹は困却しているようだった。美奈子の動きについていけず、ステップもぎこちなかった。直樹の両手はやじろべえのように左右で揺れて遊んでいた。
 美奈子は笑いながら調子に乗り、直樹を引きずるように左右に大きく動き出した。
 直樹は砂浜の窪みに足を取られてバランスを崩し、体の右側に崩れ落ちた。その勢いで、美奈子の体は一旦宙に浮き、顔から砂浜に突っ込んだ。美奈子の口に砂が入るくらいの勢いだった。
 笑いながらゆっくりと立ち上がった直樹は、ジーンズについた砂を払っている。
 美奈子は険しい表情をしながら立ち上がった。砂を勢い良く口から噴出し、ハンカチで舌を拭いた。大きな炎を目に浮かべ、直樹の顔を睨めつけた。
「直樹くん! 酷いよ。砂を食べたじゃないの!」
「無理ですよ。僕は俳優でもダンサーでもないのだから、こんなところで、あんなに大きく動かれたら転びますよ」
 目から冷気をはきだすように、直樹は美奈子の目を覗いていた。
 美奈子は体の力が抜け、大きく溜息をついた。
「ああ、サイテーだわ。やっぱり、直樹くんじゃ無理なのね。ちっとも、ロマンスがないわ。もう帰りましょう」
 直樹は少しむっとした表情でバイクの方へ歩き出した。
 ブツブツと文句を言いながら、美奈子も後に続いた。
 帰り道のタンデムシートは味気なかった。夢の国を感じた永代橋も暗闇に潜む冷たい鉄の橋だった。魔法が解けたシンデレラのようで、美奈子は一般大衆を自覚した。
 膨らみかけた三日月は雲に姿を隠し、カシオペヤのWや赤い火星も消え去っていた。金星だけがぼんやりと薄い灯火を残し、美奈子の後を静かに追いかけていた。

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