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ルビーの気まぐれ 第六話 奇跡のランプチャンス(1)

 窓から差し込む眩しい光で美奈子は目が覚めた。出窓の外ではレースのように薄く透ける白い雲が、つばめのような速さでライトブルーの中を通り過ぎている。
 山中はまだ隣で眠っている。伸び切った頬で口をぽかんと開けた寝顔は、無邪気な子供のように可愛らしかった。
 山中を起こさないように、美奈子はそっと青いチェックの肌かけ布団をめくった。ベッドを降りながら、フローリングの床に足をつける。冷えた爽やかな空気が全裸の素肌をすうっと通り抜け、体がシャキッと目覚めた。
 そのまま空気の流れに身を任せ、美奈子は部屋の中央まで歩いた。目を閉じる。ゆっくりと大きな口を開け、両手を頭上に伸ばす。部屋に満ち溢れた明るい光を、深呼吸するように全身で吸い込んだ。目を開けると、ぼんやりとした頭がはっきりとした。
 ベランダの窓ガラスに透けて映った自分の細い裸身に、美奈子はふと気がついた。両腕で抱えるように胸を隠し、顔を僅かに赤らめる。前夜はワインのほろ酔いと、薄暗さの力を借りて大胆になれた。星の力も大きかった。降り注ぐ日差しの中で、前日のリアルな映像が踊っている。美奈子は恥ずかしさで全身を染めた。
 でも、何か充実した達成感が体を包んでいる。スターダスト作戦はほぼうまくいった。お試し作戦ではなく、本番作戦に切り替えようと、美奈子は窓ガラスを見つめながら頬を揺らした。
 部屋の中をキョロキョロと、美奈子は眺めていた。何か身に着けるものがほしい。背の低いタンスの上に、赤いサッカーのユニフォームが丁寧にたたんであるのを見つけた。シャワーの後のバスローブ代わりにはちょうど良さそうだった。
 簡単にシャワーを浴びた美奈子は、頭からユニフォームをかぶった。大きめのユニフォームは首から膝上までをすっぽりと隠し、ワンピースを着るようで、ちょうど良い長さだった。でも、袖は長く、少し腕まくりをした。
 美奈子は茶髪の長髪をバスタオルで拭きながら、キッチンの冷蔵庫を開けた。缶ビールが詰まっており、碌なものがなかった。使えそうなものは生卵とチーズくらい。フライパンに火を入れ、卵を割って落とす。油が乱舞する朝のメロディーが流れた。チーズを適当な大きさに切り、冷蔵庫の上のコーヒーメーカーのスイッチを押した。
 時が進むごとに朝食の香りが流れ出す。キッチンの小さな黒いテーブルの上には目玉焼きとチーズにコーヒーが並んでいる。パンがないのは寂しい。でも、ないものは仕方なく、外へ買いに行ける格好でもなかった。
 朝食の準備が出来た頃、白いタオルを片手にシャワーを浴びた山中が全裸で現われた。前夜のようにもじもじと前を隠すことはなく、堂々とした姿でさっぱりとした顔をしていた。
 美奈子はどきっとした。改めて見る山中のシンボルは凄く間抜けで、巨人にしがみついた子ネズミのようだった。でも、どこか憎めない愛着が湧いていた。
「前くらい隠しなさい。レディーの御前よ!」
「もう、気にするのはやめることにした。何か吹っ切れたよ」
 タオルを首に掛け、山中は真面目な顔で話していた。
 美奈子は顔を赤らめた。子ネズミを見ていると、前夜の余韻が背中を歩き出す。
「そんなものを朝から見せられたら、気が可笑しくなりそう」
「ごめん。けれども、美奈子の前では飾ることなく、全てを曝け出したい。オレたちは最高のパートナーだから」
「そうね、小さいもの同士だから、それを隠すことは意味がない。啓太の前では私も全てを曝け出したい!」
 赤いユニフォームをさっと脱ぎ捨てた美奈子は、白い光の中で小学生のような貧弱な胸を堂々と晒した。恥ずかしさは不思議と湧いて来なかった。何か長いトンネルを抜けたようで、春の日差しのような風が胸の中一面にぷわりと広がった。両手を腰の脇につけ、美奈子は微笑みながら山中を見つめた。
 山中もタオルを投げ捨て両手を腰の脇につけた。
 テーブルを挟み、二人は楽しそうに見つめ合いながら時を過ごした。コーヒーが冷め出した頃、漸くそのまま椅子に座り、朝食を愉快に食べ始めた。
 食器を洗い終えた美奈子は、フローリングの部屋でショーツを手に取っていた。少し顔を崩しながらショーツに足を通した。着替えの荷物は山中の車に積んだままだったので、仕方ないと思った。
 山中はキッチンのテーブルにスポーツ新聞を広げ、まだくつろいでいる。サッカーの記事に夢中のようだった。
ベランダの窓ガラスに全身を映し、美奈子はショーツの具合を確認していた。ショーツは特に問題なく、ガラスに映った貧弱な胸を見てもショゲルことはなかった。
 晴れやかな顔でベッドの前まで歩いた美奈子は、床に落ちているブラを拾った。ブラを枕の下にしまい込み、枕を両手で叩いた。上げ底ブラはもう必要なく、占領地に印を刻むにはちょうど良かった。見えない敵からも防御出来るはずと、美奈子は舌を出しながらほくそ笑んだ。
 身支度が整った二人はマンションの外に出た。玄関脇の小さく風に揺れる植え込みは、薄緑の葉をゆらゆらと煌かせていた。葉から流れ湧く清々しい香りを浴びながら、二人は腕を組んで建物の裏にある駐車場へ向かった。
 空はすっかり青くなり、雲一つない晴れ空だった。太陽の光は力強く、二人の歩く道を焦がすように照らしていた。

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