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ルビーの気まぐれ 第七話 トロイの木馬(5)

 八月も末になった。でも、まだ暑かった。風は相変わらずの熱風で、入道雲も天高く城のようにそびえ立っていた。セミの声も途絶えることなく、天日の光りが辺りをジリジリと焦がしていた。
 いつもの道玄坂のカフェで、美奈子は手足を伸ばしながらアイスキャラメルラテを口に含み涼を取っていた。川村とはカフェの入口で別れた。一緒に出社すると、気不味いらしい。
 見せびらかすように堂々と、腕を組みながら美奈子は出社したかった。でも、川村が頑なに拒否をする。余り無理を言って、川村の機嫌を損ねても仕方がない。週末を除いて毎晩抱かれるだけでも幸せだった。春の頃に比べれば大進歩だ。
 鼻に残ったマルボロの香りを楽しみながら、美奈子は前夜のことを思い出した。小さな胸を両腕で抱え、天井を見上げながら一人でほくそ笑む。胸がふわっと宙に浮き、天の川を漂う気分だった。
 でも、突然天の川は消え去り、真っ暗な宇宙空間にほうり出された。納品日だった。山中に会わないと行けない。あれから、携帯電話の電源は切り続けていた。会社にかかってきた電話も居留守を使った。けれども、納品には顔を出さなければいけない。渚か沙織でも代わりに行かせようか。多分、オヤジが許さないだろう。だんだんと胸が重たく沈み、美奈子は顔を顰めた。
 足を引きずりながら、美奈子は道玄坂を上った。背中に太陽の粒子がこびれつき、ずっしりと心に効いてきた。会社のビルの前まで漸く辿りついた。溜息をつきながらピンクのハンカチで美奈子は額の汗を拭った。
 ふと、車道の向こうの歩道を美奈子は眺めた。また黒い魔術師が笑いながら立っている。今度こそ捕まえてやろうと、足を一歩踏み出した。大きなクラクションが鳴り、どきっとした。トラックが通り過ぎ、風圧で後ろに戻された。魔術師はもういなかった。
 気を取り直して会社のビルに入る。エレベータを降りて鉄の扉を開けると、皆がオヤジの机の周りに集まっていた。川村が早く来いと目で合図をした。
 人を押し退け、美奈子は机の前に出た。椅子の上で背中を仰け反りながら、オヤジが昇天している。天井に白目を剥き、口から泡を出していた。
 渚がオヤジの顔を白い扇子で大きく扇いでいた。沙織もオヤジの手を握り、心配そうな瞳で見つめていた。
 美奈子は暑さでやられたのかと思い、腹の底から噴出した。ふと、机の上を見る。新聞が広げられていた。『白雪製菓倒産』という大きな文字が飛び込んできた。
バブル時代に投資した美術品の大量負債が重石だったらしい。バブル後は、リストラを行いながら自転車操業で細々と寿命を延ばしてきた。でも、主力商品の大福シリーズのマンネリ化と急激に沸き起こった金融機関の不良債権の健全化対策で、ついに力尽きた。負債総額は約三百億円だった。
ラッキーと思った美奈子は顔全体をにやけ出した。
「美奈子。この非常事態に、何を嬉しそうにしている」
「だって、この暑い中、納品に行かなくてもいいのでしょう」
 踊るような声を出しながら美奈子は川村の顔を見た。
 川村はきりっとした目で美奈子を睨みつけた。
「何、呑気なことを言っている。今まで使った制作原価はどうする。納品してその分だけでも回収しないと、うちも倒産だ!」
 美奈子は顔を崩し、頬が引きつった。頭を鉄のハンマーで打ちつけられたようで、何も言葉が浮かんでこなかった。オヤジが伸びている理由が漸く分かった。
「兎に角、納品に行くから仕度をしろ」
「大丈夫。昨日のうちに準備は出来ているから」
 美奈子は胸を張り、自分の机の上のCDROMを指さした。
 窓の外は急に暗くなり、黒い雲で空全体が覆われていた。紫色の稲光が音を成して走り出し、大粒の雨が勢い良く降ってきた。風の流れも強く、会社のビル全体が大きく揺れている。崩れ落ちるのではないかと思うほどの振動だった。

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テーマ : オリジナル小説
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Author:夢野広志(むのひろし)
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